古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで 書評|河上 麻由子(中央公論新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年5月25日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで 書評
東アジアの日本を立体的に浮き彫り
歴史解釈のアナロジーを、実証的に覆す

古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで
著 者:河上 麻由子
出版社:中央公論新社
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 実を言うと日本古代史は苦手だった。天皇の名前が連らなる中学・高校の教科書を開くと、必ず瞼が重くなる。王朝の権力闘争は、小さな世界の内向きな出来事であり、躍動感やリアリティに乏しかった。だから本書を手にとった時も嫌な予感がしたのだ。

だが著者の問題意識が「『我が国の歴史』という束縛から抜け出し、アジアの歴史としての日本の対外関係史を考える」(245P)となれば、古代史の風景は一変する。倭の五王時代から遣隋・遣唐使による対中交渉を通じて、東アジアの政治状況の中で日本古代史が立体的に浮き彫りにされているからだ。

われわれは「白村江の戦い」や「安禄山の乱」を、学校教育を通じて知ってはいる。しかし本書を読むと、それぞれが「独立した事件」ではなく、東アジア交流史の中で中国、日本、朝鮮半島の各プレーヤーによってどのように紡がれていったかが、躍動感を持って描かれる。

著者は北海道大学で日本古代史を学んだ後、九州大学大学院で東洋史を専攻した三十代の若手研究者。遣隋使をはじめアジア諸国の対隋交渉を研究テーマにする以上、東洋史の中の日本という視点は不可欠であろう。

「アジアの重大事件は常に、玉突き的に他地域へと波及し、新たな状況が各地に誕生した。そのような変化が及ぶたびに、日本は、対中交渉を開始、あるいは停止・再開した」(Ⅴ)という見立ては興味深い。中国が世界的な大国に復活し、それが東アジアだけでなく地球全体の地殻変動につながっていく様は、古代から現代にいたる国際関係のダイナミズムそのもの。

ハイライトは「607年、日本は隋の煬帝に『日出ずる処の天子』で名高い書状を送る。以後、対等の関係を築き、中国を大国とみなすことはなかった―」との通説を、実証的に覆すことにある。筆者はその柱として「仏教」を据えるのだが、それは仏教が当時、朝鮮半島諸国と倭国にとって、単なる宗教ではなく「対中交渉と密接にかかわる政治課題」だったからだとする。

「日出ずる処の天子」の「謎解き」をみよう。中華思想では「天子」は複数存在しないから、倭国が自らの王を「天子」としたのは、「隋との対等な関係を主張した」というのが通説だった。

しかし著者は、遣使の目的が「重ねて仏法を興した菩薩天子(評者注 皇帝を指す)の朝拝」(81P)にあるとする使者の発言に着目し、「天子」とは、中華思想上の「天子」ではなく「仏教用語」だったと解釈する。さらに煬帝がこの書簡に不快感を表した理由も、「仏教後進国」にすぎない倭王が「天子」を自称するのは不遜とみなしたため(89~90P)と読み込んだ。

同様に、702年の第七回遣唐使が、国号を「日本」に改めたいと則天武后に請願した理由についても謎解きがおこなわれる。従来は「日が昇る」を意味する日本に改めることで、「唐にたいする対等ないし優越を主張するため」というのが通説だった。これに対し著者は、その当時の東アジアでは、「日本」とは中国から見た極東を指した。だから日本を国号とすることは、中国を中心とした世界観を受け入れ、中華たる唐に朝貢する「日本」の図式が定まることを意味し、「唐への対等、優越を主張するためではなかった」(140P)と結論する。

中華からの「自立」と国体観念を強調する「通説」がどうして生まれたのか。筆者は1940年の国定教科書の修正趣意書にある「我が国の東亜並びに世界に於ける指導的地位の自覚を促すこと」(242P)を引用しながら、為政者が戦争遂行にとって都合のよい歴史解釈をしようとしたとみる。

ここまで書けば触れざるを得ないのが、現代の為政者が新元号の典拠として「国書」をことさら強調している点だ。万葉集が中国古典を参考にしていることは明白だし、当時の貴族たちは漢籍の素養がなければ生きられなかった。遣唐使を通じ朝貢している時代だ。にもかかわらず「国書」を強調するのは、まるで虚勢を張る「幼児」のようだ。戦前の歴史解釈のアナロジーを見る思いがする。
この記事の中でご紹介した本
古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで/中央公論新社
古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで
著 者:河上 麻由子
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「古代日中関係史 倭の五王から遣唐使以降まで」出版社のホームページはこちら
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