世界史を「移民」で読み解く 書評|玉木 俊明(NHK出版 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年5月25日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

世界史を「移民」で読み解く 書評
なぜ人々は「移民」になるのか
「移民」が歴史を築き上げてきた

世界史を「移民」で読み解く
著 者:玉木 俊明
出版社:NHK出版
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今でこそ、移民や難民の存在を知る日本人が増え、世界の様々な国で政治や国のありかたに大きな影響を与えているということが知られるようになった。イギリスのEU離脱をめぐる混乱、アメリカのトランプ大統領の悲願でもあるメキシコとの国境に壁を建設するという公約など、移民の存在が発端となって国際問題にまで発展するケースが目立つ。少子高齢化社会が一段と深刻な状況に陥っている島国日本でも、この春から労働力として受け入れる外国人に関する法改正が実施され、移民との共生は決して他人事ではない時代を迎えている。

そもそも、なぜ人々は「移民」になるのか。もう10数年前にさかのぼるが、私自身が移民の取材を始めたきっかけは、まさにそのことであった。本書はその理由を文明の興亡の歴史にまでさかのぼり、「世界史の流れ」と「人の流れ」の関係をつかむヒントを与えてくれる。

内容は三部構成で、第一部 人類・民族の「大移動」とは何だったか 第二部 世界の「交易」はいかに結びついたか 第三部 ヨーロッパ繁栄は「移民」がもたらしたか というテーマからなる。例えば、古代文明の時代には、メソポタミア文明とインダス文明が陸上・海上の両方のルートで交易をおこなっていたことや、古代エジプト文明がフェニキア人を通じて地中海の様々な地域と交易をおこなっていたことが、のちの時代、例えば古代ローマ人や中世のムスリム商人やイタリア商人、近世のフランス商人、オランダ商人、スウェーデン商人たちの貿易活動に受け継がれていったという。なるほど、時代ごとの人とモノの行き来が交通網を発展させ、その積み重ねが次の時代に生きる人たちのさらなる繁栄をもたらす。そこに存在するのは、まぎれもない「移民」なのである。交易・貿易はもとより、産業革命、帝国主義といったキーワードから移民を読み解く部分では、近代ヨーロッパ経済史が専門の著者ならではの見解が光る。

特に私自身が興味深く感じたのは、「砂糖革命」に関する部分である。16~19世紀、アフリカから5000万人もの黒人奴隷が新世界(新大陸)に送り込まれ、サトウキビの栽培に従事させられた。そのうち20%もの黒人が、拷問に等しい劣悪な輸送船の中で死亡したということは高校世界史などで勉強しているので、何となく記憶に残っている人もいるであろう。しかしそこで、サトウキビ栽培の技術伝播の担い手として大きな役割を果たしたのが、セファルディムと呼ばれるユダヤ人であった、というのは目からウロコが落ちる思いがした。セファルディムは15世紀末にスペインとポルトガルを追放されたユダヤ人で、それはキリスト教の勢力がイベリア半島からイスラム勢力を駆逐した歴史(レコンキスタ)と重なる。黒人奴隷も移民、ユダヤ人も移民。「移民」が歴史を築き上げてきたといっても過言ではない。

移民を理解するヒントが随所に盛り込まれた本書であるが、コンパクトにまとめているため、歴史が苦手な人には難しく感じる部分もあるかもしれない。ただ、使われている用語は、どこかで見たことがある高校世界史のレベルのものが多いので、世界史の図表などを参照しながら読み進めると、より面白く理解も深まるだろう。
この記事の中でご紹介した本
世界史を「移民」で読み解く/NHK出版
世界史を「移民」で読み解く
著 者:玉木 俊明
出版社:NHK出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「世界史を「移民」で読み解く」出版社のホームページはこちら
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