消滅世界 書評|村田 沙耶香(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年5月25日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

村田沙耶香著『消滅世界』

消滅世界
著 者:村田 沙耶香
出版社:河出書房新社
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消滅世界(村田 沙耶香)河出書房新社
消滅世界
村田 沙耶香
河出書房新社
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 「世の中いろんなことが便利になっていくのに、何で結婚は便利にならないんだろうね」
私の言葉に、母はしかめ面で「変なこと言わないでよ」と返した。私は「便利になっても良いものといけないものがあるのだ」と反省し、それ以上は言わなかったが、不倫や離婚のニュースを耳にする度に「結婚という制度の見直しはやはり必要なのではないか」と思うのだった。

『消滅世界』では、そんな言ってはいけないのかもしれない私の本音やなかなか上手く言語化できないでいた思いが言葉にされ、物語になっていた。世界に私と似たような感覚を抱えた仲間がいるのを発見したような気がして、私は嬉しかった。
この物語は、「恋愛」「セックス」「結婚」「子作り」に関する常識が現在とは全く異なっている世界を描いている。恋愛は二次元の「キャラ」とすること、恋人とはセックスをしないこと、結婚相手は恋愛対象として見ないこと、そして人工授精で子供を作ることが「常識」とされている。 
主人公である雨音の母親は、「前時代的」な人間であり、この物語では「近親相姦」としてタブー視されている「夫とのセックス」によって雨音を産んだ。母親は、自分の考え方が正しく、異常なのは世界の方であるとして、雨音に前時代的な常識を押し付ける。雨音はそのような母親の呪縛から逃れたいという一心で、上手く世界に適応しながら大人になっていく。しかし、夫とともに実験都市・楽園に移り住むと、雨音の中にあった「常識」が変化していく。楽園では「家族」も「恋愛」も「セックス」も存在しない。移り住む以前には当たり前だったものがなくなっていく。雨音はそのことに戸惑いながらも、やはりその世界においても上手く適応できてしまう。母親のようにはならない、と世界に適応してきた雨音は、今度は「どの世界においても適応できてしまう自分」に恐怖する。そして、「母に植えつけられたわけでも、世界に合わせて発生させたわけでもない、自分の本当の本能」を求め、ある方法で、雨音はそれを獲得する。

読者は「昔の価値観を押し付けてくる母親」と「世界に合わせて本能を変化させてしまう自分」の両者と戦い、「自分の本当の本能」を求めた雨音の人生を擬似体験することで、それまで信じて疑わなかった「常識」を疑い始める。今まで私たちが受け継いできた「常識」は、本当に「私たちの本能」で、それは現在の私たちにぴったりと当てはまり、私たちは快適なのだろうか。
例えば、「恋愛をしない若者が増えた」という話題はかなり前から持ち上がっている。恋愛が人生において優先度の高いものではなくなってきた、という感覚が私の中にもたしかにある。「若いんだからもっと恋愛をしろ」と言う大人もいるが、私たちはその感覚に抗うことができない。「私の本当の本能」が大人の言う「常識」と符合していないのだ。
母が私に見せたしかめ面は、私と母の感覚の違いを顕著に表していた。結婚を合理的なものにしようとすることに抵抗のない私と、ものすごくそれに抵抗のある母。それは、この物語での雨音と母親の関係にそっくりだ。時代が変わり、環境が変わり、私たちの感覚も変化してきた。もしかしたら私たちはみな『消滅世界』の住民で、現代はリアルな『消滅世界』なのかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
消滅世界/河出書房新社
消滅世界
著 者:村田 沙耶香
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「消滅世界」出版社のホームページはこちら
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