連載 ルネ・クレールの再来     ジャン・ドゥーシェ氏に聞く (107)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年5月28日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

連載 ルネ・クレールの再来     ジャン・ドゥーシェ氏に聞く (107)

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シネクラブの後、観客と会話するドゥーシェ(シネマテークにて)

HK 
 「アベル・ガンスは重要な映画監督ではない」とは、ムルナウやシュトロハイムなどと比較してのことですか。
JD 
 そうです。アメリカやドイツの本当に偉大な映画作家とは、比較になりません。フランスでは、ガンスの他に、ルネ・クレールが重要な位置を占めていました。お分かりだとは思いますが、彼は「良い」フランス映画を作りました。規則から外れることなく、そこそこの出来のものです。しかし、彼の映画について何か話すことはありますか。
HK 
 結局、作家主義の要点とは、押し付けがましいペテン師のような映画監督とスクリーンの外を想像させる映画監督の差異にあったのだと思います。
JD 
 そのような分類法は事実であり、昔から今日に至るまで存在してきました。しかし、ルネ・クレールは例外です。彼に対しては、ペテン師とさえ呼ぶべきではありません。なぜならペテン師からは程遠いからです。彼はインテリの、率直な良い映画制作を行いました。しかし、彼の映画には、何も記憶に残るものはありません。感じの良い雰囲気を作ろうとした、そこそこの出来の作品ばかりです。けれども、わざわざ見るような作品でもありません。
HK 
 確かに、何か押し付けられることも、想像させられることもありませんね(笑)。それでも、どうしてルネ・クレールが再浮上してきているのか、なんとなく想像はつきます。時代を経ることで、映画に対する見方が変質したからだと思います。
JD 
 時代とともに見方が変わるのは当然のことです。
HK 
 今日の人々は、映画作家ルネ・クレールを見ているのではなく、彼の作品と「狂乱の時代」を結びつけて考えているはずです。クレールは、少なからず、その当時の雰囲気を表現しようとしてはいたはずです。
JD 
 はい。当時のフランス人にとっては、ルネ・クレールの生み出している世界観こそが知的な行いだったのです。
HK 
 一九二〇年代のパリが表象されていると思い込んでいるからこそ、ルネ・クレールがもてはやされ始めているのではないでしょうか。例えば、アメリカ人観光客などは、一九二〇年代のパリが今でも好きなようで、街を散歩していると、いたるところでその時代へのレファレンスがあります。
JD 
 彼らにとって残念なことだと思います。
HK 
 同じ二〇年代の映画でも、ルノワールの方が、よりよく表象できているはずです。短編であまり見る機会もありませんが、『チャールストン』の方が、クレールの『幕間』よりも、当時の雰囲気に近いのではないかと勘ぐってしまいます。しかし、もし『女優ナナ』のような作品を知っているのならば、当時のフランスを能天気な観光気分だけで見ることはできません。本来のフランスは、影の部分が非常に強かったのではないでしょうか。
JD 
 重要な指摘です。ルノワールとは正反対に、ルネ・クレールには決して『女優ナナ』のような作品を作ることはできなかった。絶対にクレールには、ゾラのような世界を用いることができなかった。彼には到底、そのようなフランスを撮ることは不可能でした。なぜならば、『女優ナナ』とは人々を注視することであり、フランス国民を成り立たせ、フランスという国家の基礎となっている仕組みを分析し、それと共に生きることだからです。ルネ・クレールは、フランスの人民の一部を成したことは、決してありませんでした。明瞭な知性といった考えは持っていたのかもしれませんが……。
HK 
 彼にとっては、そのような世界観がフランスだったのではないですか。
JD 
 それがフランスの一部と考えられていたのも事実です。ルネ・クレールの活躍した時代には、彼の映画こそが時代の象徴であり、理想像でると考えられていました。当然のように、最も偉大なフランスの映画監督は、ルネ・クレールであるとされていました。フランスが持つイメージが、優雅で明瞭な知性などによってこそ彩られている必要があったのです。しかしながら、フランスとはそのようなイメージとはかけ離れています。フランスは優雅ではありません。確かに、優雅だとされているモードの世界はあります。しかし、本当に優雅なものであるかは討議されなければいけません(笑)。
〈次号へつづく〉
(聞き手・写真=久保宏樹)
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