ドゥルーズとマルクス 近傍のコミュニズム 書評|松本 潤一郎(みすず書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月1日 / 新聞掲載日:2019年5月31日(第3291号)

ドゥルーズとマルクス 近傍のコミュニズム 書評
資本=精神の現象学と偶然性唯物論の階級闘争
十五年に渡る諸論文を収めた思索の「経過報告」

ドゥルーズとマルクス 近傍のコミュニズム
著 者:松本 潤一郎
出版社:みすず書房
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ドゥルーズは「哲学」を、「概念の創造」として定義した。この定義は、耳障りのよい、空疎な決まり文句として反復され、人口に膾炙している。だが同時に、彼はこう付記する。概念に先行し、その条件となる「問題」が、厳密な仕方で規定されないかぎり、概念の創造が行われようはずもない、と。

言うまでもなく、問題が上手く立てられることは、自明ではない。ドゥルーズによるなら、注釈者たちの失態とは、何よりまず、ひとりの哲学者の問題の諸条件をとらえ損ねる点にあるのだ。

およそ十五年に渡って書き継がれた諸論文を収めた本書は、書名に掲げられたドゥルーズとマルクスのみを論じるわけでもなければ、彼らの概念を懇切丁寧に「説明」するものでもない。近年流行の「わかりやすさ」は、資本に奉仕するばかりでなく、「支配階級または国家に奉仕する知」にすぎないとして、斥けられる。

その一方で、韜晦とは無縁の、仄かなユーモアの漂う本書は、現代の様々な出来事を徴候として把握しながら、問題を、アクチュアルな仕方で、規定しなおさねばならない、という意識を背景とする、政治哲学の書たらんとしている。だからこそ、「知を「特異性」に向けて酷使」し、来たるべき実践‐概念を切り開こうとする思索の「経過報告」という形を纏うのである。

著者の取り組みの中では、マルクスの様々な著作に向き合うことに加え、ヘーゲルが重要な対話相手として再検討され、ネグリ、ガタリ、ランシエール、クロソウスキー、フーリエらが召喚され、ドゥルーズ=ガタリを手厳しく論難するバディウが、肯定的に議論の俎上に載せられる。そして、ドゥルーズにとっては色褪せたものとされる「矛盾」のような概念にも、ふたたび光が当てられるのである(「矛盾は失効したのか」)。

その意味で本書は、マルクス主義から出発しながら、いわゆる「ドゥルーズ」なるもののイメージをめぐって、一種の論争を仕掛ける書物でもあると言えるだろう。そのことを通して著者はおそらく、マルクスのアクチュアリティを再確認するとともに、ドゥルーズを、この世界において(再)政治化する方途を探っている。

ところで、本書が、哲学研究のいわば作家主義的な態度から距離を置きながら、あくまで「問題」をめぐって哲学者たちの思考を配備しなおすのだとするなら、では、書物全体を貫く問題とは何か。

そうした問題のひとつが、資本と歴史との分離である。すなわち、原理として「歴史=物語」の始原‐目的に置かれる「資本」と、資本の運動を下支えする「歴史=物語」形式とのあいだでの、共軛関係を切断することである。

この観点から、歴史論、反復論、資本論、偶然性唯物論といった主題が、検討されてゆく。課題は、資本制の始まりの偶然性を明かすことであり、資本制へと到る軌道とは別の線を素描することである(アリギやマラッツィへの言及があるように、この問題には、歴史ばかりでなく、政治化された地理‐空間論も、言語‐記号論も連関してくる)。

これは、資本制を唯一の原理とする始原‐目的論的な歴史に抗して、資本の精神現象学を、その土台から批判する試みであろう。それは、歴史の消去を目指すものではない。むしろ逆である。というのも、著者の述べるように、「偶然性が消滅」するとき、「歴史もまた消え去る」のだとするなら、資本/歴史の共軛関係への批判において賭けられているのは、「偶然性を必然性には回収されない人間の歴史的行為の基本条件として抽出する」ことだからだ。かくなる歴史的行為には、集団的な実践が必要である。つまり、政治の主体=人民が分断されている情況下での、「今日のおける階級闘争」の構想が不可欠なのだ。

本書の問題は、極めて大きい。その一方で、資本の歴史に参加してしまっている「〈私たち〉」の手にしている解は、余りに小さい。このギャップから、ロマン主義的に、修正主義的に、敗北主義的に、シニカルに逃避してはならない。おそらくそれが、「失敗」の歴史をめぐって、著者が示唆していることである。
この記事の中でご紹介した本
ドゥルーズとマルクス 近傍のコミュニズム/みすず書房
ドゥルーズとマルクス 近傍のコミュニズム
著 者:松本 潤一郎
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「ドゥルーズとマルクス 近傍のコミュニズム」出版社のホームページはこちら
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