音楽劇の歴史 オペラ・オペレッタ・ミュージカル 書評|重木 昭信(平凡社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月1日 / 新聞掲載日:2019年5月31日(第3291号)

音楽劇の歴史 オペラ・オペレッタ・ミュージカル 書評
多様な視座から音楽劇を語る
大きな変化がなぜ起こったのかを考える

音楽劇の歴史 オペラ・オペレッタ・ミュージカル
著 者:重木 昭信
出版社:平凡社
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勿体ないタイトルである。本当は『音楽劇の社会史』とか『音楽劇の政治経済史』、あるいは『音楽劇の興業史』としたほうが、著者の狙いに即していたのではないかとも考えてしまうが…。

いきなりくさすようなことを書いてしまって、ごめんなさい。だが本書が、ゴマンと存在するオペラ史やミュージカル史とは異なる視点から描かれているがゆえの意見である。じっさい著者自身が、次のように述べている。「これまでの音楽劇の説明では、物語や音楽の解説が中心で、観客については注意が不足していたようにも思える。」「ルネサンス、フランス革命、第一次世界大戦、ヴェトナム戦争などの出来事を通じて、社会だけでなく音楽劇も大きく変わった。本書の狙いは、その変化がなぜ起こったのかを考えることだ。そのため、芸術にとどまらず、政治、経済、社会制度、風俗、技術についても広範に言及せざるを得なくなり(後略)」。

このように多様な、しかも音楽や演劇以外の視座から、欧米に誕生した音楽劇を語ろうというのが本書の狙いである。またそうした事情ゆえに、扱う対象も多岐にわたっている。王道のテーマともいえる「オペラ」だけにとどまらない。バレエ、オペレッタ、アメリカの音楽劇、ミュージカル、レヴュー、ロック作品、コンセプト作品、そしてメガ・ミュージカルと、実に幅広いジャンルだ。しかもその根本には、著者の次のような問題意識が存在している点が重要である。「今日では、ミュージカルは『娯楽』で、オペラは『芸術』のように受け止める向きもあるが、興業として考えるならば、オペラも昔は『娯楽』だった。クラシック音楽も、『芸術』である前に『娯楽』だったのだ。」

クラシック音楽やオペラ至上主義の立場にこだわっていては、けっして思いつかないような見解である。音楽劇についてまわる価値観のヒエラルキーをいったんゼロに戻した上で、「娯楽」というキーワードの下に様々なジャンルが相対化されている。まただからこそ、ジャンル別に縦割りされた音楽劇史解説では論じえないような、他ジャンルを自由に横断するような記述が可能となっている。

そうした著者の姿勢ががぜん面白みを増すのが、一九〇〇年頃からのミュージカルとレヴューの発生を扱って以降の章。例えばニューヨークの地下鉄網の発達と、それにともなう劇場地区の移動、さらには電気や自動車や音楽再生装置の登場によって、観客の生活様式や嗜好が変化してゆく。結果、ブロードウェイの誕生と発展が見られ、またそれに即した新しいレパートリーが開拓されていった…。ミュージカルファンには先刻承知の情報かもしれないが、このように音楽劇をとりまく当時の状況について、作り手だけでなく受け手の側にも目配りをおこなうことで、その時代の「空気感」を体験できる。しかもそれが、ミュージカルよりも前に誕生したオペラやバレエとの関連で語られてゆくがために、音楽劇におけるミュージカルの立ち位置も、よりはっきりと理解できる。

それにしても、殊音楽劇の世界においても歴史は繰り返すものであると痛感せざるをえない。例えば二十世紀初頭に台頭したモダニズムの中で、オペラやバレエの新作があまりにも前衛的になりすぎた結果、これらのジャンルにおいて新作が力を失い、かつてのレパートリーのみが再演されるという状況が定型化してしまった。同様に、長い歴史を有するとはいえないミュージカルにおいても、作品と振付がきわめて密接に関わり合ってしまったがために、「再演時も、それを根底から覆す振付の採用は難しい」という事態が往々にして起こりつつある。あるいは、ミュージカルの再演ブームも然り。

このように見てくると、オペラやバレエの轍をミュージカルも踏むのか…とも思いたくなってしまうがさにあらず。高尚な「芸術」と化した前者に対し、後者が今なお「娯楽」としての存在を貫いているから…なのだが、その理由を解き明かす鍵こそ、本書の特徴である「興業」の視点にあるのがユニークだ。
この記事の中でご紹介した本
音楽劇の歴史 オペラ・オペレッタ・ミュージカル/平凡社
音楽劇の歴史 オペラ・オペレッタ・ミュージカル
著 者:重木 昭信
出版社:平凡社
以下のオンライン書店でご購入できます
「音楽劇の歴史 オペラ・オペレッタ・ミュージカル」出版社のホームページはこちら
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