高瀬一誌『火ダルマ』(2002) 伊良部の馬鹿が伊良部の馬鹿が環状線はつらい電車です |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年6月4日 / 新聞掲載日:2019年5月31日(第3291号)

伊良部の馬鹿が伊良部の馬鹿が環状線はつらい電車です
高瀬一誌『火ダルマ』(2002)

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五七五七七のいずれかの句をわざと欠落させるといったような独特のリズム感を特徴とする歌人の、一九九七年の作品である。リズムとしては「7・7・7・8」となる。

伊良部とは千葉ロッテ・マリーンズのエース投手として活躍した伊良部秀輝であるが、一九九七年といえば彼がニューヨーク・ヤンキースに入団した年である。「ヤンキース以外には入りたくない」と主張して日米の球界を動かす異例の三角トレードを仕掛けて入団したが、期待されたほどの活躍はできず、ブーイングするファンに向かって唾を吐きかけるなどの態度の悪さですっかり嫌われ者となってしまった。そういう状況だったので「伊良部の馬鹿が」なんてつぶやきが漏れてしまっていたのだろう。野茂英雄がメジャーリーグで大活躍して褒め称えられ、日本人メジャーリーガーが注目の的になっていただけに、それほど野球に興味のない者でも伊良部のことを気にかけていた時代であった。

「環状線」は山手線をはじめ国内の鉄道にたくさんあるためどこの路線を指すかはわからないが、ほぼ同じ音数を繰り返したリズムが同じ場所を堂々めぐりするイメージと重なり、読んでいると頭の中身がぐるぐるとかき混ぜられてゆく。歌の中にはそうとは書いていないのに、なぜか満員電車にもみくちゃにされているようなイメージがわいてくる。ニュースを感情的に消費しながら変化のない生活をくり返す「つらさ」が、実はこの歌の主題なのである。(やまだ・わたる=歌人)
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