連載  18世紀の映画(ロメール)   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く (108)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年6月4日 / 新聞掲載日:2019年5月31日(第3291号)

連載  18世紀の映画(ロメール)   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く (108)

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ロメール(左)とドゥーシェ(1970年頃)

HK 
 ルネ・クレールが、フランスの市井を見ることがなかったのは事実だと思います。ルネ・クレールだけではなく、他の人々も一九世紀の偉大な芸術であった文学については、本当に取り扱えていたとは思えません。おそらくフランス文学が映画の形になるためには、ロメールを待たなければいけなかったのではないでしょうか。
JD 
 忘れてはならないのは、ロメールは、本来は文学の教師であったということです。
HK 
 ロメールにとっての映画とは、ユゴーのような偉大な小説家にとっての小説だったのではないですか。
JD 
 ユゴーだけではなく、彼の好んでいた一九世紀の他の作家の影響もありますが、特に大きな影響も持っていたのは一八世紀の文学です。私の表現ですが、ロメールは、一八世紀の言葉に基づき自らの映画を二〇世紀の規則の中で作り上げた映画作家です。当然、その一八世紀の言葉は、二〇世紀の言葉として表現させれています。つまり、もしロメールの映画を聞く、もしくは読むのであれば――その二つを同時に行うことになりますが――、彼の映画は私たちの時代へと書き直された一八世紀のフランス語であることが理解できるのです。フランス語に対する理解があるのならば、すぐにわかる事柄です。そのような点からすると、ロメールに匹敵する映画作家はいません。ロメールは、考古学的フランス語映画を作っていたのです。三〇年、四〇年後になってロメールの映画が、いまだに色あせることなく機能し、フランスの最も偉大な映画作家たちの中に名前を刻んでいるのには理由が無いわけではありません。
HK 
 ロメールが年齢を重ねるほどに、作品自体も洗練され美しくなっていったと思います。
JD 
 私もそのように思います。私が、彼の晩年の作品の中でも特に気に入っているのは、『我が至上の愛〜アストレとセラドン〜』です。全く新しい映画を作ってしまった。誰も、そのような映画を作ったことはありませんでした。
HK 
 彼は、自分の中に撮影の規則を課すことがなかったように感じます。例えば『グレースと公爵』では、革命の時代の絵画をそのまま動かす特殊撮影も用いています。この作品は、ポストプロダクションの変遷という観点からも、よく取り上げられます。
JD 
 『グレースと公爵』は、私が先ほど述べた一八世紀とロメールの関連についての良い例です。この作品においてロメールは、ギロチンによって処刑されることになる公爵へと接近しました。彼が見せたのは、「自分はオルレアン公であり、革命の側にあった」という態度によって、フランスを去ることを全く疑うことのない公爵の姿です。しかし、その革命の側こそが問題だったのです。
HK 
 『グレースと公爵』を見てすぐに思い出すのが、ルノワールが『マルセイエーズ』を作った際に言っていたことです。ルノワールはバスティーユ奪取のような、伝統的歴史家に言わせれば本当に重要な事件を見せることを、よしとしなかったようです。確かに実際の歴史とは、何か記念碑的な事件だけによって変わるのではありません。ルノワールにとっての歴史とは、日常の中にこそあったようです。
JD 
 ルノワールが大きな関心を持っていたのは、人民であり、その胎動です。彼は本物の革命についての作品を実現させました。革命とは、人民です。そのために、現在のフランスでは「黄色いベスト」が、政治の場において本当に大きな懸念となっているのです。私は、そのようなあり方は良いものだと考えています。
HK 
 人々の日常を撮るという点で、ドゥーシェさんが気に入っている侯孝賢、その中でも特に気に入った作品であり、先日シネクラブで紹介していた『珈琲時光』も、ルノワールの系統にあるのではないでしょうか。かつての映画のように導入、中間、結論のような物語の方法があるのではなく、私たちの目の前に流れていく瞬間があるだけです。
JD 
 問題となるのは、常に生であるのです。映画に関する問題は元来難しいものではないのです。映画においては、二つの解答があります。生を撮る、つまり現在を問題とするのか。それとも、存在を問題とするのか。存在とは、生まれてから死ぬまで付き添うものです。

〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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