フンボルトのコスモス思想 自然科学の世界像 書評|木村 直司(南窓社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月1日 / 新聞掲載日:2019年5月31日(第3291号)

フンボルトのコスモス思想 自然科学の世界像 書評
科学者的詩人の「地球の自然学」科学者的詩人の「地球の自然学」
フンボルトの生涯にわたる探検と著作活動の特徴を浮き彫りに

フンボルトのコスモス思想 自然科学の世界像
著 者:木村 直司
出版社:南窓社
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日本におけるゲーテ研究の孤塁を守りつつ、国際的ドイツ文学者として活動してきた木村直司は、ゲーテ関連の著述を重ねる一方、『色彩論』をはじめゲーテの自然科学関係の著作の新訳をつぎつぎに発表してきた。その木村が、自然科学者ゲーテと取り組むうち、その面でのゲーテの後継者と見られるアレクサンダー・フォン・フンボルトにも熱い視線を向けてきた。

本書はフンボルトの生涯にわたる探検と著作活動の特徴的な面を浮き彫りにしながら、それが私たちの現代にとっても重要な意義をもつことを世に伝えようとする、一般向けの学術書である。本書が書かれた背景には、フンボルトは彼の同時代のゲーテやグリム兄弟に比べると、日本ではあまりに知られていないという事情がある。

たしかに、フンボルトが草分けの苦労をしながら探検し記録した中南米の奥地にも今日ではテレビカメラが入り、秘境の実態を茶の間に届けてくれる。しかしフンボルトの仕事の重要性は現地の見聞報告にとどまらず、地球上に棲息する動植物の生態が地球内部の地質や地球上方の気象と密接に関係していることを個別に分析しながら、同時に地球全体の生命を総括的に把握するよう心がけていた点にある。このフンボルトの「地球の自然学」は、地球そのものの診断という重い課題に直面している私たちに多くの示唆を与えてくれる。
木村は以上の点においてフンボルトを「ゲーテ的自然研究の完成者」と見なしている。ゲーテが関心をもつ領域も動植物、鉱物、地質、地理、気象、天文等に及び、彼は生物をつねに原型からの発展というパターンでとらえ、その過程で環境との関わりを文学や絵画の表現も交えて記録した。フンボルトも基本的には同じ考えにもとづいていたが、あえて違いを言うなら、ゲーテはすべての考察の中心に人間への影響を置いて見ているが、フンボルトは地上のあらゆる生物に平等に気を配るという姿勢がきわだっている。ゲーテは詩人的科学者、フンボルトは科学者的詩人と木村は両者を対比して見せている。

両者は台頭するナショナリズムにとらわれることなく、あらゆる国境を越えて研究活動上の国際協力の可能性を引き出していたという点でも画期的であったといえよう。ただ、ゲーテの活動範囲が事実上ヨーロッパにとどまったのに対し、二十歳若いフンボルトの探検の足跡は中南米の未開地からロシア・西シベリアの各地へ広がった。日本には来ていないが、フンボルトが日本でやるべき仕事を引き受けたのがシーボルトだったというのが木村の見方である。

高度な進歩を遂げた現代の科学技術は人間の生活を豊かにし便利にした反面、地球の自然を破壊して各地の生物たちを危機に追い込む事態を起こしていることを考えるとき、たった一つしかない地球を丸ごと慈愛をもって扱う生命科学ともいうべきフンボルト流の人文科学的地理学を蘇らせることは今や焦眉の急である。その実質を伝えるフンボルトの代表的な著作は、初期のものでは『自然の諸相』で、木村自身の訳がある。晩年の記念碑的大著『コスモス 自然学的世界記述』(全四巻+遺稿)は「十九世紀のベストセラー」といわれているが、英語はじめ各国語に翻訳されながら、日本語全訳はいまだ存在していない。木村は本書を通じて『コスモス』の翻訳を各方面に呼びかけているのだ。(
この記事の中でご紹介した本
フンボルトのコスモス思想 自然科学の世界像/南窓社
フンボルトのコスモス思想 自然科学の世界像
著 者:木村 直司
出版社:南窓社
以下のオンライン書店でご購入できます
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