地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか 書評|アランナ・ミッチェル(光文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月1日 / 新聞掲載日:2019年5月31日(第3291号)

地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか 書評
ブリュンの足跡に地磁気の謎解明の歴史を重ね、物語る

地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか
著 者:アランナ・ミッチェル
翻訳者:熊谷 玲美
出版社:光文社
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地磁気の逆転について知っていても、その証拠の発見者を知る人は少ないだろう。筆者もそれがフランスの地球物理学者ベルナール・ブリュンであることを本書を読んではじめて知った。

ブリュンは、フランス中部の火山で採取した粘土岩に残された磁気の向きを調べ、その向きが当時の北と逆を指しているとして、地磁気の逆転を報告した人物である(1906年)。ところが、その主張は信じてもらえず、同時期のアインシュタインの特殊相対性理論(1905年)や、少し後に登場したウェゲナーの大陸移動説(1912年)の衝撃の大きさの影に隠れてしまう。

ブリュンに焦点を当て、電磁気学や地学の歴史を整理している点が本書の特徴だ。磁極の発見、地球は巨大な磁石であるとの説の登場、電流が磁場を作ることの発見、電磁誘導の発見など、数々の知見がブリュンの功績を理解する背景として第Ⅰ部、第Ⅱ部で記述される。第Ⅲ部、第Ⅳ部では、ブリュン以後明らかになったプレートテクトニクス理論、人工衛星による地磁気の観測状況などが説明される。

地磁気逆転は、十数年前に大きな話題になり、その危機を煽る記事がたくさん書かれたが、その後下火になっている。地球の磁場に最近異変が見られるとの話も聞かない。それで筆者は本書を読み始める前、なぜこんな古びたテーマの本が出るのだろうと逆に興味を引かれた。いざ読んでみると、ブリュンの足跡に地磁気の謎解明の歴史を重ね、物語として構成する手法に感心した。

著者は科学ジャーナリストで、大学ではラテン語を専攻したという。大所高所の視点からではなく、その道の専門家による説明をかみ砕き、取材過程も含めて書いているところがいい。特に、地磁気逆転の決定的証拠が発見されたにもかかわらず、顕彰碑も何もない辺鄙な場所を、押しの強い老科学者とともに著者が訪れる場面は本書の白眉だ。

かつて騒がれたほど、地磁気逆転の兆候は今のところ観測されていないという。著者が取材した地球物理学者の大半もこの件について態度を保留している。いずれ逆転するのは間違いないが、いつ逆転するかを言える状況ではないのだ。しかし、著者が本書の後半で指摘するように、地球磁場の逆転に伴う磁場の弱体化が文明に与えるリスクは以前より高まっている。というのも現代文明が電磁気システムへの依存をますます強めているからだ。地磁気が逆転しないまでも大幅に弱体化すると、地球を守る磁気シールドが失われ、太陽活動による磁気嵐や高エネルギーの宇宙線などの影響をまともに受けて電磁気に依存するテクノロジーは機能しなくなる。電力網も、携帯電話網も、人工衛星網も、である。

本書の欠点は図が一つもなく、自分でネット検索して調べざるを得なかったところである。が、ラテン語に鍛えられた素養のおかげなのか、著者が紡ぐ文章には独特の魅力があり、この欠点は補われている。
この記事の中でご紹介した本
地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか/光文社
地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか
著 者:アランナ・ミッチェル
翻訳者:熊谷 玲美
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
「地磁気の逆転 地球最大の謎に挑んだ科学者たち、そして何が起こるのか」出版社のホームページはこちら
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