私が総理大臣ならこうする 日本と世界の新世紀ビジョン 書評|大西 つねき(白順社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年6月1日

大西つねき著『私が総理大臣ならこうする』 書評②
立教大学 青木涼馬

私が総理大臣ならこうする 日本と世界の新世紀ビジョン
著 者:大西 つねき
出版社:白順社
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 昨今アメリカでは、ハイパーインフレにならない限り財政赤字を気にせず通貨を発行できるとする現代金融理論が民主党で人気だ。著者の主張はこれと似ているが、対外純資産が潤沢であることを絶対条件とし、国内でのみ通用する「政府通貨」の発行を唱えている点で異なる。日本には世界一の対外純資産があるためそれが可能であり、著者が総理大臣なら、外貨を使って格差、環境破壊、地価高騰や空き家などの問題を解決するという。

問題の本質は金利だと著者は述べる。経済成長率が鈍化した社会では利子率が成長ペースを上回り、投融資できる者とできない者の間で格差が拡大する。これにより、お金を借りた労働者が金利分余計に働くことで時間を奪われてしまうと述べているのが重要で、JPモルガンの為替ディーラーとして働いていた著者が、お金ではなく時間の自由な使い方をより重視している事に感心する。

金利をなくし、格差が確実になくなるように政府通貨を国民に直接発行するわけだが、民間銀行による信用創造を無くせとは言わず、銀行の企業監査機能と経済流動化のノウハウを政府通貨によって残そうとも述べるのだから抜け目ない。安易な市場原理主義批判には陥らないところが大いに評価できる。

しかし、直観に反する主張もあった。高速道路の大型車利用を値上げすれば、遠距離物流が減って地域経済が活性化すると述べているが、農林水産省によれば、平成27年度の時点で26都府県が食料自給率50%を下回っており、空港と港がある地域には外貨を使って海外から食料輸入できるが、ない地域では難しく、国内の遠距離物流に頼らざるを得ない。

国交省の平成28年度資料によれば、荷主から高速利用を前提とした時間指定がなされていたにもかかわらず、高速道路料金の支払いをされなかったことがあると4割の運送事業者が答えている。1990年に施行された物流二法により、2007年までに事業者数は1.5倍増えたが、ドライバーの数は1.07倍増えたに過ぎず、零細化した運送会社は何層にもわたる下請け構造を甘んじて受けねばならず、荷主に対する価格交渉力がない。このような状態で大型車の高速利用料金をあげれば、物流危機が起きかねない。

また、輸出最大化のために労働対価である人件費を削ってきた現状を変えるための賃上げを唱えているが、賃上げをすれば失業率が上がるのは世の常であり、非正規やパートなどで働く人の雇用が最初に切られる。著者のいう政府通貨によるベーシックインカムでの所得保障ならば増税の心配はないが、これは失業の固定化につながる恐れがあるのではないか。

とはいえ、荒削りと思われる部分は著者が本当に総理大臣になった時にじっくり制度設計を考えれば良いだろうし、全体を通せば評者自身、帯にあるとおり政治にワクワクし始めたのも事実である。長時間労働が問題とされる昨今、モノではなく時間の消費の仕方について考えるのは、多分に有意義なことのはずだ。
この記事の中でご紹介した本
私が総理大臣ならこうする 日本と世界の新世紀ビジョン/白順社
私が総理大臣ならこうする 日本と世界の新世紀ビジョン
著 者:大西 つねき
出版社:白順社
以下のオンライン書店でご購入できます
「私が総理大臣ならこうする 日本と世界の新世紀ビジョン」出版社のホームページはこちら
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