インフラグラム 書評|港 千尋( 講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月8日 / 新聞掲載日:2019年6月7日(第3292号)

インフラグラム 書評
自由への一歩を踏み出すために
映像を思考することからはじめる

インフラグラム
著 者:港 千尋
出版社: 講談社
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インフラグラム(港 千尋) 講談社
インフラグラム
港 千尋
講談社
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わたしたち現代人の生活は、文字通り映像に包囲されている。手元にあるテレビやパソコンやスマートフォンにとどまらず、街に出ればさまざまなモニター、防犯カメラ、電車内広告、屋外ビジョンまで、写真や動画は情報化社会の根幹をなすインフラとなった。著者はそれを「インフラグラム」と呼ぶ。だが、インフラになることは、その状態が自然化することを意味するのでブラックボックス化をともなう。それと同時に、あらゆる商取引が電子化されてあつかう情報が増大するなかで、一日に人間が眼を酷使できる時間は限られているため、人間の眼差しがグローバル企業の求める資源になっていく、と著者は指摘する。テレビ広告やグーグルのような検索エンジンを運営する企業は、無料でサービスを提供しているように見えて、ユーザーが画面に払う一定時間のアテンション(注意)をマーケティングや広告に使って利潤を得る。わたしたちは見るだけで、そうとは意識せずに労働をさせられているのだ。

第二章「インフラグラムの時代」は、『群衆論』『記憶』『映像論』を書いた著者がそれらの知見を動員しながら、情報ネットワーク社会における顔写真について論じた読みごたえのある文章である。発明から一八〇年が経ち、写真はデジタル画像のデータとなって非物質化した。とくに人間の顔の画像は、画像分析から生体認証までに利用され、国によっては顔認証で決済もできる。それが監視カメラによる大規模なセキュリティシステムや、国家や大企業による個人の信用情報の一元的管理と結びつけば、そこにプライバシーが存在する余地はない。そういうと現代社会の暗部ばかりを強調することになるが、三上晴子の『欲望のコード』展やクリス・マルケルの『ダイアレクター』といったメディアアーティストたちの作品を読解しながら、「消費社会の欲望と監視社会の深い絡み合い」を思考していくところが本書の魅力であろう。

同様に第三章の「軍事の人類学」は、一読すると、世界中に軍事基地を築く「基地帝国」としてのアメリカと、高度にハイテク化された戦争のあり方をあつかう論考である。それでいて、深いところでは映画作家フレデリック・ワイズマンの『基礎訓練』『軍事演習』『ミサイル』といった、人類学的なドキュメンタリー映画における批評的な視線を堀り起こしている。第四章「空の眼」もまた、ドローンという遠隔操作の飛行カメラが戦争や殺人の機械として利用される新しい事態を論じるが、それでいて、レバノンのシリア移民を撮った映画『セメントの記憶』と台北の『再基地』展に参加したアーティストたちの抵抗する視線をあぶりだす。「想像力にとって、空は自由でなければならない」と著者はいう。ならば、インフラグラム化した世界のただ中にあって、わたしたちが自由へと踏みだす一歩もまた、映像を思考することで為されなければならないだろう。
この記事の中でご紹介した本
インフラグラム/ 講談社
インフラグラム
著 者:港 千尋
出版社: 講談社
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