増田ユリヤ×安田純平対談 悲劇を繰り返さぬため日本人(わたしたち)に何ができるのか 『THE LAST GIRL』(東洋館出版社)を基軸に世界を語る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年6月7日 / 新聞掲載日:2019年6月7日(第3292号)

増田ユリヤ×安田純平対談
悲劇を繰り返さぬため日本人(わたしたち)に何ができるのか
『THE LAST GIRL』(東洋館出版社)を基軸に世界を語る

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二〇一八年のノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドの自伝邦訳版『THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、戦い続ける女性の物語』(東洋館出版社)が刊行後、好評を博している。
このタイトルには著者の、〈この世界でこのような体験をする女性は、私を最後にするために〉との真に切実なメッセージが込められている。
本書を基軸に、ジャーナリストの増田ユリヤ氏、安田純平氏に、ISのこと、イラク、シリアのこと、難民のことなど、現在世界で起こっている考えるべきことについて語っていただいた。(編集部)
第1回
凄惨な事件、貴重な語り

安田 
 ナディアの自伝邦訳版が日本で発売されたのち、ドキュメンタリー映画も劇場公開となりました。実際に彼女に会ったことがある人には、ナディアは大人しい女性だったと聞きましたが、そのような普通の女性が、本来ならば誰にも知られたくない体験を公の場で伝え続ける姿に、人間はこれほど強いものなのかと驚きました。
増田 
 ヤズィディ教徒という力を持たないマイノリティが、ISに一方的に攻撃されたわけですよね。母親、家族、故郷の人たちが虐殺され、若い女性たちは捉えられてサビーヤという性奴隷にされた。彼らは自分たちの暮らしをしていただけなのに、あまりにも理不尽な仕打ちです。
安田 
 ナディアは、いまなお捕えられている人びとや自分以外に犠牲になった人のために、こういうことがもう二度と起こらないように、体験を語りその罪を訴えているわけですよね。

記憶を振り返るのは追体験するようなもので、相当苦しいことでしょう。思い出すだけで頭が痛くなったり、呼吸が苦しくなったり、絶望を感じただろうと思います。
増田 
 ヤズィディの信仰では、改宗も外からの入信も許さず、結婚は信徒どうしですることになっています。婚前交渉などもってのほかです。性奴隷にするなどというのは、どんな女性に対しても許しがたい行為ですが、重ねて信仰の上からも、命を失ったと同然の状況です。しかしナディアは、母親の「どんな理由でも自殺はいけない」という言葉を胸に、生き延びようとする。そして自分の体験を振り返り、ここまで詳細に書くわけですが、それはおっしゃる通り、死にたいほど辛い行為だったのではないかと思います。

でも逆説的ですが、ここまでの犠牲的精神は、強い信仰心に裏打ちされなければ、貫くことができないことだったかもしれませんね。
安田 純平氏
安田 
 ISがやってくるまでの、平和な村での生活の様子も印象的でした。
増田 
 そうですね。貧しいながらも笑いにあふれた暮らし、家族のこと、学校のこと、サロンを開く夢のこと、ファッションへの興味など、ごく普通の女の子の目線で綴られていました。
安田  
 ヤズィディ教徒たちが暮したコーチョ村は、ISが来る以前の姿はいまは跡形もないですからその意味でもこの記録は貴重だし、この記述があるからこそ、その後に起きたことがいかにひどいことだったかを感じることができる。

ただ、彼女の話が世に知られるためには、そのためのプロモーションが必要だったでしょう。本書の序文を書いている弁護士のアマル・クルーニーは、俳優のジョージ・クルーニーの奥さんですが、そういう人たちの協力があってこそ、これまで闇に葬られてきた、戦争犯罪を裁くための道筋の一歩が踏み出されたわけですよね。ウェブで好き勝手に書くのとは違い、書籍化にあたっては、第三者的な情報を得たり、事実関係を確かめるのに、編集者など多くの人の手を借りたりしているはずです。伝えることの意義も、本書をきっかけに改めて考えたことでした。

そして、本書を読めば、ヤズディ教徒がどれだけひどい目に遭ったかをつぶさに知ることができますが、シリアの内戦で殺された人の数は、その二桁多いことも、我々は見過ごしてはいけないと思います。イラク戦争があり、シリアの内戦が起こったから、このヤズィディ教徒たちのジェノサイドも起こっているわけですから。ナディアの話からそこまで掘り下げて考えないと、ISはひどいという話で、終わってしまいます。
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この記事の中でご紹介した本
THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語/東洋館出版社
THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語
著 者:ナディア ムラド、ジェナ クラジェスキ
翻訳者:吉井 智津
出版社:東洋館出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
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