手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ) 書評|穂村 弘 (小学館 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年6月8日 / 新聞掲載日:2019年6月7日(第3292号)

穂村弘著『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』

手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)
著 者:穂村 弘
出版社:小学館 
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 短歌が好きだ。

そう言うと、たいていの人が怪訝な顔とともに「変わっているね」という言葉をこちらに返してくる。疑問に思って数人に聞き、分かった。どうやら短歌には「小難しくて、馴染みがないもの」といった印象が強くあるらしい。

しかし現代短歌には
気づくとは傷つくことだ 刺青のごとく言葉を胸に刻んで
枡野浩一
雨に似た言葉を持った人だった 字を丁寧に書く人だった
加藤千恵
など多くの人が抱いてきたイメージとは違うものも多くある。

中でも固定観念をひっくり返すのが『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』である。

本書は、著者で歌人の穂村弘さんに送られてきた「まみ」という女の子からの五九一通の手紙がベースとなっている。あとがきでは、本書がその大量の手紙への返信であるとされていたが、短歌は著者の目線ではなく、すべて「まみ」の立場から詠まれていた。ところで「まみ」というのは、妹である「ゆゆ」と黒ウサギの「にんに」とともに暮らす女の子だ。

この作品にはそういった背景や、それを基にした設定に、著者の工夫が多々見られる。そもそも個性的なタイトルからして既存の歌集とは一味違うことが分かる。そしてさらに、それを引き立たせる、可愛らしくも毒のあるタカノ綾さんによる表紙と挿絵。書店に並んでいたら思わず手に取ってしまうだろう。そして、数ページめくって度肝を抜かれるに違いない。
可能性。すべての恋は恋の死へ一直線に墜ちてゆくこと
氷からまみは生まれた。先生の星、すごく速く回るのね、大すき。
外からはぜんぜんわからないでしょう こんなに舌を火傷している

私が好きな歌を引いた。どうだろう。今まで教科書等でしか短歌を知らなかった人ならば、愕然とするのではないか。現代的で平易な言葉が用いられている点や、内容から受けるポップな印象に驚かされる人も少なくはないだろう。一読して理解できるものではないが、かといってまったく訳が分からないものというわけでもないと思う。

読者は「まみ」について、短歌を通してしか知ることができない。キャバクラ嬢やウエイトレスをやっていることや、病院にかかっていることが明かされても、いったいどのように働いているのか、何の病気であるのかは分からないまま想像を巡らせて読み進めていくしかないのだ。

歌集内で彼女は
ボーリングの最高点を云いあって驚きあってねむりにおちる
星の夜ふたり毛布にくるまって近づいてくるピザの湯気を想う
といった優しい日々の中に
包丁を抱いてしずかにふるえつつ国勢調査に居留守を使う
神様、いま、パチンて、まみを終わらせて(兎の黒目に映っています)
などの不穏な気配を漂わせながら暮らしている。

これらの、読者と「まみ」との距離感や、彼女自身の暮らしぶりは、私たちの現実生活と似ている。他者との関わりの中で何もかもをさらけ出す人はほとんどゼロであるし、四六時中、心穏やかな人もいないだろう。彼女はこの本の中にいるが、読者の心のとても近いところにも存在するのだ。

短歌は決して「小難しくて、馴染みがないもの」ではない。生活に密着していて、想像力を豊かにしてくれる。短歌と縁がなかった人にこそ、ぜひ読んでいただきたい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)/小学館 
手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)
著 者:穂村 弘
出版社:小学館 
以下のオンライン書店でご購入できます
「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」出版社のホームページはこちら
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