記憶の図像学 亡き人を想う美術の歴史 書評|加須屋 誠(吉川弘文館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月8日 / 新聞掲載日:2019年6月7日(第3292号)

記憶の図像学 亡き人を想う美術の歴史 書評
権力と死の関係を描き出す
「死」から把捉する人と美術品の共感の構造

記憶の図像学 亡き人を想う美術の歴史
著 者:加須屋 誠
出版社:吉川弘文館
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 現代に遺された造形物のうち、かなりの部分を占めるのが、死者への追悼を目的としたものである。つまり、美術史とは、生ける者が死んだ者に対して行ってきた追善行為の集積であるともいえる。聖徳太子から江戸時代の公家にいたる造形と死の関係を俯瞰する本書の着想はそこにある。著者の研究をふり返ると、『仏教説話画の構造と機能』(中央公論美術出版、二〇〇三年)で鎌倉時代の仏画に図解された現世と来世の位置関係の把握を試み、『病草紙』(中央公論美術出版、二〇一七年)では後白河上皇周辺の絵巻にみえる病苦や障碍へのまなざしを読み解いた。さらに『天皇の美術史2』(吉川弘文館、二〇一七年)において、後醍醐天皇という稀代の個性にまつわる美術受容の実態を詳述している。

こうした流れの上で本書を繙くと、権力と死の関係を描き出そうとする意図が浮かび上がってくる。現世に栄華を得た者が、いかにして死後の往生の保証を得るか。あるいは貴種を受け継ぐ者が、いかに祖霊の加護を受けて子孫繁栄に成功するか。本書の各章に掲出される造仏・写経・臨終儀礼の詳細な年表からは、彼らの切実な思いが伝わってくる。そして古代・中世社会のなかで仏事や供養が定型化し、反復することで実効力と説得力が増幅されてきたプロセスがよくわかる。仏教美術における図像は、このような供儀のパターン化による共通理解によって成り立っている。そして図像学とは、記憶の反復によって積もった造形を、垂直に切り取ることで、地層として明示するような作業といえる。ただし、実際に遺された造形を見ると、決してワンパターンでないところが重要である。それらは、基礎となる図像を共有しながらも、時代、注文主、制作者の意図によって差異と個性が生み出される。それぞれの作例に見る差異に注目することで、亡き人に対する具体的な「想い」を読み取ることが可能になるのである。

著者が注目する一四世紀の「法然上人絵伝」(知恩院蔵)には、法然自身、弟子の僧侶、在俗の信者らが往生を遂げる瞬間が数多く描かれている。阿弥陀の来迎を示す一筋の斜光線が往生者に降り注ぐ点は定型化されているが、看取る人々は、泣く者、呆然とする者、奇蹟に魅入られる者などさまざまで、彼らの信仰の深浅や死者との親疎が露わになる。そして、看取りの構図は画面内で完結するのではなく、絵巻の外側にいるわれわれ観者をも巻き込む構造をもち、絵画が宗教的な共感の基点として機能することがわかる。

つまり本書は、人と美術品の間に成立する共感の構造を、死という最も厳粛な瞬間に着目することで把捉しようとする試みであり、心の深奥に画像が突き刺さるような読後感は、それが成功していることを示す。

本文は平易な記述に徹しており、註記も省略されているが、巻末の二四頁にわたる「参考文献解題」は美術史・仏教史・政治史・建築史の成果を丹念に拾っており、前近代の死生観を展望する際に有用である。
この記事の中でご紹介した本
記憶の図像学 亡き人を想う美術の歴史/吉川弘文館
記憶の図像学 亡き人を想う美術の歴史
著 者:加須屋 誠
出版社:吉川弘文館
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