〈後期〉ハイデガー入門講義 書評|仲正 昌樹(作品社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年6月15日 / 新聞掲載日:2019年6月14日(第3293号)

〈後期〉ハイデガー入門講義 書評
ギリシア語とドイツ語の術語から 読み解く後期ハイデガー入門

〈後期〉ハイデガー入門講義
著 者:仲正 昌樹
出版社:作品社
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本書のタイトルから連想することは、「入門」であり、「講義」であるから、平易なしゃべり言葉で書かれた簡単に読める書ではないかと思う。しかし実際に読んでみると、ギリシア語やドイツ語の言葉の説明にかなりの分量が割かれていて、決して読みやすい書物ではない。

実は、著者の仲正氏が[あとがき]で、「「いやギリシア語が全然できなくても読めますよ!」と言うべきなのだろうが、私はそうは言わない」と述べている。つまり、これを機会に、読者には、ギリシア語の初歩やドイツ語を勉強してほしいと注文をつけている。それが人文系の学問の基礎となる「教養」であると。しかし近年の入門書は、〇×式の答えをすぐ出して、自分の頭で理解できないことは、「無意味!」と決めつけているが、それでは、哲学、延いては「人文系学問」の全否定となってしまうという。評者も全く同感であり、大学での授業や演習でさえ、語学を修得して、じっくり原典を読むという作業が少なくなっている現実に危機感をいだいている。

さて、本書は、以前仲正氏が出版して好評を博していた、ハイデガーの前期の主著『存在と時間』の入門書『ハイデガー哲学入門―『存在と時間』を読む』に引き続く、後期のハイデガーについての入門書となっている。二〇一七年に読書人スタジオにおいて、全七回で行われた入門講義の記録である。取り上げられている著作は、その時期を代表する『形而上学入門』(川原栄峰訳、平凡社ライブラリー)と『「ヒューマニズム」について』(渡邉二郎訳、ちくま学芸文庫)であり、そのテクストを段落毎に解説する仕方で進む。また多くの解説をギリシア語やドイツ語の細かなニュアンスから説き起こす仕方で講義が進んでいく。

まず『形而上学入門』について。本書は、一九三五年に行われた講義が基になっており、ナチスと距離を置き始めたけれど、まだ親密な関係にある時期に行われた書として知られている。まず〈形而上学の根本の問い〉としての「なぜ一体存在者があり、むしろ無ではないのか」という「なぜ」の問いから、「存在者」ではない、「存在」の問いを発する。そこで中心となる概念が、「フュシス(自然)」や「アレーテイア(真理)」である。また著者は、デリダの読解を通して、本書の中の「精神」という概念にも注目する。

ハイデガーは、「存在と生成」「存在と仮象」「存在と思考」「存在と当為」という四つの対から、存在を捉えようとする。その中で一番重要な対は、「存在と思考」である。フュシスとロゴスの語源に遡り、省察する。結局フュシスとしての存在は、出来させつつ隠蔽する力であり、「集約する」力「ノエイン」としてのロゴスと対応している。両者は、アレーテイア(真理)の隠れと現れの闘争(ポレモス)となってくるとする。

さらに『「ヒューマニズム」について』は、フランスの思想家ジャン・ボーフレの三つの問いに答える形で進んでいく。第一の問いは、サルトルが、ハイデガーを無神論的実存主義者と分類したが、ハイデガーの存在の思索は、ヒューマニズムとはかけ離れているので、ヒューマニズムに意味を与え返すにはどうすればいいのかというものとなっている。

それに対して、ハイデガーは、フュシスとしての存在から現存在の思索が可能となるのであり、そこへと身を開き―そこへと出で立つ在り方において初めて人間である現存在を規定することができるという。これまでの形而上学のように、人間を「理性的動物」と規定することでは、真の人間の人間性を理解することはできない。しかしそれは逆に、ヒューマニズムを否定しているのでも、非‐人間的なことを主張しているわけでもない。

紙幅の関係で細かなニュアンスまでお伝えすることはできなかったが、本書の示すことの一つは、哲学には、語学習得や読解の努力をした者にのみ広がっている視界を見る喜びがあるということである。本書は、そういう喜びを伝えてくれている良書である。
この記事の中でご紹介した本
〈後期〉ハイデガー入門講義/作品社
〈後期〉ハイデガー入門講義
著 者:仲正 昌樹
出版社:作品社
以下のオンライン書店でご購入できます
「〈後期〉ハイデガー入門講義」出版社のホームページはこちら
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