海軍技術者の戦後史 復興・高度成長・防衛 書評|沢井 実(名古屋大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年6月15日 / 新聞掲載日:2019年6月14日(第3293号)

海軍技術者の戦後史 復興・高度成長・防衛 書評
技術と戦争の関係に再考を促す
戦前・戦中の技術のどの部分がどのように戦後につながったのか

海軍技術者の戦後史 復興・高度成長・防衛
著 者:沢井 実
出版社:名古屋大学出版会
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私事で恐縮だが、先日、ソニー創業者・井深大の評伝を刊行した。その時にまず驚き、疑問を感じつつも未解決のまま残してしまったことがあった。井深と共にソニーを育てた面々は共同創業者の盛田昭夫を始めとして多くが戦時中は軍で技術開発や研究に携わっていた元軍人だった。民間企業を経営していた井深も電波探知機の製造など陸軍関係の仕事を多く請負っていた。

ソニーといえば平和国家として出発した戦後日本を代表する民生品メーカーだ。そこに多くの軍関係者が関わっていた。ソニーを世界企業に成長させるうえで、戦争を通じて鍛えられた軍事技術の蓄積はどの程度貢献していたのか。

拙著はその謎解きを主眼とする内容ではなかったので深追いはしなかったが、疑問は残った。そんな経緯があったために本書『海軍技術者の戦後史』で「戦後日本と戦前・戦時日本の『連続と断続』を問う作業は、依然として大きな意味を持っている」と書き始める著者の言葉に「我が意を得たり」の思いをもった。

戦前・戦中の技術のどの部分がどのように戦後につながるのか。それを見極めるためには技術的な継承の流れを調べると同時に軍に関わった技術者の戦後の生きざまを辿る必要がある。後者の課題に今まで答えてきたのは主にノンフィクション作品だった。しかし商業出版物の宿命として、軍や、戦後に禄を食んだ民間企業で相当程度に知名度の高い技術開発に関わった技術者しか取り上げられない。その点、研究書である本書は戦時中の技術者教育のプロセスや戦後の各種技術研究施設を対象として網羅的な調査に挑み、元軍技術者と再軍備との関わりもタブー扱いせずに扱う。

たとえば〝海軍三校〟のひとつ「海軍機関学校」の卒業生を調査した章では終戦を何歳で迎えたかによって戦後の人生に変化が生じる傾向が浮かび上がる。比較的年齢の高い世代は公職追放を経験し、就職先が厳しく制限される中で米軍関係に就職してゆくケースが多かった。終戦時に三〇歳前後の者は 一九五二の海上警備隊の創設以後に海上自衛隊、陸上自衛隊、防衛庁勤務となってゆく人が多い。さらに若く、終戦間近の時期に海軍機関学校を卒業した世代は同期の約三割が戦死する過酷な経験を強いられ、海軍内でネットワークを作る間もなく戦後の混乱の中に放り出さ、波乱万丈の人生を生きることになる。

こうした調査と報告の先に本書が再考を促すのは、いうまでもなく技術と戦争の関係である。中国との戦争をいたずらに拡大し、英米との開戦すら決意した背景には、自らの保持する軍事力と科学技術への過剰な自信と信頼があった。
そんな戦争に敗れた戦後日本は、反省のうえに「欧米に学ぶ」姿勢を改めて強化したが、もう一方の敵であった中国との戦争でも敗れたことをも真摯に受け止めたと言えるだろうか。科学技術的に劣ると考えられていた中国にさえも勝てなかった経験は、正しく踏まえられていれば「科学技術の意義と限界、社会における科学技術の役割」を省みる機会となっていたはずだと著者は指摘する。

確かにそれは「欧米に追いつけ追い越せ」のキャッチアップ戦略一色に塗り込められたのとは別の〝もう一つの戦後史〟を日本が歩む道を拓いていたかもしれない。しかし、現実の戦後史はそうはならず、ソニーを筆頭とする日本の民生品メーカーは、欧米企業を凌駕したが、今や急成長を遂げた新興国の企業の前に苦戦を強いられ、中国メーカーとの合併によってかろうじて生きながらえた日本企業もある。キャッチアップ戦略によって得られた覇権はキャッチアップされることによって呆気なく失われるのだ。

「戦争と技術の関係を問う作業は、戦後における政治・経済と技術の関係を考察することに直結している」と著者は書く。その言葉を反芻しつつ、最近激化する米中の科学技術を巡る戦いの中で、自らの立ち位置を得られずにいる日本の現状を、戦中戦後史まで遡る時間スケールの中に置いて再検討してみるべきだろう。本書はそんな作業の確かな案内役になるはずだ。
この記事の中でご紹介した本
海軍技術者の戦後史 復興・高度成長・防衛/名古屋大学出版会
海軍技術者の戦後史 復興・高度成長・防衛
著 者:沢井 実
出版社:名古屋大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「海軍技術者の戦後史 復興・高度成長・防衛」出版社のホームページはこちら
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