奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態 / 6909(花伝社)支援者 制度矛盾の中で権利を奪われた実習生を支える草の根の活動         |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

著者から読者へ
更新日:2019年6月11日 / 新聞掲載日:2019年6月7日(第3292号)

支援者 制度矛盾の中で権利を奪われた実習生を支える草の根の活動         

奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態
著 者:巣内 尚子
出版社:花伝社
このエントリーをはてなブックマークに追加
読者は技能実習生の「支援」と聞くと、どんなことを思い浮かべるだろうか。私が、実習生の「支援」というものが「支援者」の地道かつ大変な取り組みの上に成り立っていることを知ったのは、あの日の電話がきっかけだった。
巣内さん、いま電話できますか――。
きつい陽射しが半袖から露出した腕を刺すような夏のある日。出先で駆け込むように入ったコーヒーチェーンで、カバンに入れていた携帯電話がブルブルと震えた。あわてて取ると、柔らかなものの、やや切迫した女性の声が聞こえきた。佐賀県で日本語教室を開いている越田舞子さんだった。聞けば、課題を抱えた実習生の支援もしており、私に電話をくれたのだった。
しばらくしてから佐賀に越田さんを訪ね、山のように積まれた書類の束を見せてもらい、私は思わず息をのんだ。越田さんが支援を求める実習生から聞き取りした内容をまとめたものだ。越田さんは実習生から何度も繰り返し話を聞き、それを書面にまとめた上で、労基署や入管、外国人技能実習機構などに送り支援を求める。実習生は昼間働いているため、相談は夜間や休日にしかできない。越田さんは睡眠時間と休息を削り実習生の声に耳を傾け続ける。深刻な状況にある実習生を保護した上で失業給付の手続きや生活面のサポートも行う。新しい受け入れ企業も探す。関係者に頭を下げてお願いをする場面も多い。問題に直面した実習生は精神的に追い詰められることも少なくないため精神面も気遣う。「支援」と一口に言っても、内容は多岐にわたり手間暇がかかる。

実習生は問題があっても外部になかなか相談できない。相談先を知らなかったり、相談すると受け入れ企業に強制帰国させられるのではと心配したりするケースがある。そんな中、越田さんの存在は口コミで広がり実習生からの相談がひっきりなしに舞い込む。けれど、いくらなんでも〝一般の人〟が無償でするには負担が大きい。実習生を助けても何の経済的利益もない上、逆に書類のコピー代や通信費など持ち出しばかり。それでも越田さんは支援を続ける。

なぜここまでするのか。私は時折、越田さんの支援活動の話を聞くと、お腹の中に重い石を入れられたように息苦しくなる。なぜ国家ではなく、一人の女性が自分の生活を侵食されながらも支援を無償で行うのか。困難に直面する実習生を生み出したのは技能実習制度であり、本来は行政が最後まで責任を持ち実習生を守るべきではないのか。

本書を書くに当たり私は実習生とともに支援者にもお話を聞いた。ぎりぎりの状態にある実習生の権利を取り戻すため越田さんのような支援者もまた、支援における負担をのみ込むこともある。本書では十分書ききれなかった支援者の奮闘とその負担。けれど越田さんはこう言うのだ。「私は人が好きなんです。それだけなんです」。一般の人の地道な活動が制度の矛盾の中で権利を奪われた実習生を支える現実をどう受け止めればいいのか。読者はこのことをどう思うだろう。共に考えてくれまいか。(すない・なおこ=フリージャーナリスト)
この記事の中でご紹介した本
奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態/花伝社
奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態
著 者:巣内 尚子
出版社:花伝社
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
著者から読者へのその他の記事
著者から読者へをもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >