マハーバーラタ入門 インド神話の世界 書評|沖田 瑞穂(勉誠出版 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月15日 / 新聞掲載日:2019年6月14日(第3293号)

マハーバーラタ入門 インド神話の世界 書評
インドの重要な文化遺産として
二十年の研鑽の成果が、学ぶべきことの多い良書に

マハーバーラタ入門 インド神話の世界
著 者:沖田 瑞穂
出版社:勉誠出版 
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古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』は普通の人が読み通すことはまず不可能なくらいに長大な作品だ。古代ギリシアのホメロス作とされる二つの叙事詩『イリアス』と『オデュッセイア』を合わせたものの三倍の分量とか、聖書(つまり旧約と新約を合わせたもの)の四倍の分量ともいわれている。インドにはもう一つ有名な叙事詩『ラーマーヤナ』があり、これもかなり長大なのだが、それでも『マハーバーラタ』の四分の一の分量とされる。これだけ膨大なので、成立もおそらく一度ではなく、長年にわたって追加がなされたらしい。したがって成立年代については紀元前四世紀から紀元後四世紀の間というかなり長い期間が想定されている。

そんな長大な作品を読むことに価値があるのかという疑問を抱かれるかも知れない。しかしピーター・ブルック演出の舞台は世界中で大人気だったし、同じく彼が脚本を書いた映画も作られた。そしてインドで製作されたテレビドラマは80パーセント以上という驚異的な視聴率だったという。最近日本でも話題となっているインド映画「バーフバリ」も『マハーバーラタ』をモデルに作られている。たとえ実際の作品を読んだことがなくても、忠臣蔵や『平家物語』の内容を知らなければ、日本人として常識に欠けるといわれるだろうし、他の国についても『ベオウルフ』、『ロランの歌』、『ニーベルングの歌』、『王書』、『アエネイス』など、教養としての伝統的言語文化は必要である。少しは教養人たらんとするなら、国際化の時代にこれからますます地位を高めていくインドの重要な文化遺産として、この叙事詩の主な登場人物とストーリーくらいは知っておいても損はないはずだ。

おおまかにいってしまえば、従兄弟同士の二つの王家がインド中部の大平原で戦争を行い、両軍ともほとんど全員が死亡するという話である。そうした構成はトロイ戦争についてのギリシアの叙事詩『イリアス』と同一である。事実、両者は元来一つだったという説もある。そしてそもそも叙事詩というのは大抵どれも戦さの話なのだ。しかしそれらが後代まで残るのは、登場人物たちの行動や言葉が魅力的で時代を超えた普遍性を持つからである。

主人公は神々を父とする五人兄弟だが、それぞれ異なる気質と特技を持ち、一人の妻を共有している。その中でも最大の英雄が英雄神インドラの子アルジュナで、その彼に御者として仕え、精神的にも支えるのがもう一人の英雄神ヴィシュヌの子クリシュナである。彼らの最大の敵は太陽神スーリヤの子カルナであり、地上での戦闘は実は天上の神々の対立の反映となっている。英雄たちの物語である叙事詩や伝説の背後に神々の物語である神話が重ねられているという重層構造がこの作品にさらなる深みを与えているのだ。

著者は『マハーバーラタ』の日本語訳を進めている途上で亡くなった上村勝彦にインドの古典語のサンスクリットを学んできた。また比較神話学については吉田敦彦に学んできたという。そうした二人の大家に学んで始まった二十年にわたる研鑽の成果として本書は書かれている。一般人向けに分かりやすい用語や表現で書かれているが、専門家にとっても学ぶべきことの多い豊富な内容を持った良書として推薦したい。
この記事の中でご紹介した本
マハーバーラタ入門 インド神話の世界/勉誠出版 
マハーバーラタ入門 インド神話の世界
著 者:沖田 瑞穂
出版社:勉誠出版 
以下のオンライン書店でご購入できます
「マハーバーラタ入門 インド神話の世界」出版社のホームページはこちら
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