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American Picture Book Review
更新日:2019年6月25日 / 新聞掲載日:2019年6月21日(第3294号)

「打ち負かされざる者たち」

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『The Undefeated』
Kwame Alexander著/Kadir Nelson画
(Versify)
 ペンギン・ランダム・ハウス傘下の出版社ダットンが、犯罪小説のベストセラー作家、リンダ・フェアスタインとの契約を打ち切った。日本でも「女性検事補アレックス・シリーズ」がハヤカワ・ミステリ文庫から出版され、人気を得ていた作家だ。

理由はネットフリックスが5月31日に配信開始した実話に基づく『ボクらを見る目』だ。1989年、ニューヨークのセントラルパークで起きた白人女性への強姦事件でハーレムの5人の少年が有罪となった。その事件を手掛けたのが当時は検察官だったフェアスタインだが、後に真犯人の自白により、冤罪だったことが証明された。

『ボクらを見る目』ではフェアスタインの違法とも思える強引な捜査方法が描かれ、配信と同時に大きな批判が巻き起こった。フェアスタインが手掛けた全事件の再調査を求める声が上がり、アマゾンに著作の販売停止を求めるオンライン署名運動も起こった。この流れを受け、配信からわずか1週間で出版契約の打ち切りとなったのだった。これほどの急転直下となった理由は、事件当時14~16歳だった少年たちへの人種偏見の凄まじさだ。中でも16歳だった少年は成人刑務所に13年服役し、言語に絶する辛酸を舐めた後にようやく釈放されている。

こうしたアメリカの人種差別を生き延びた黒人たちへの讃歌とも言えるのが、本作『打ち負かされざる者たち』だ。各ページにunafraid(恐れない)、unbending(断固とした)など、否定を表す接頭辞「un」で始まる単語を用い、米国黒人史を綴っている。unspeakable(言葉では言い表せないほどの)のページには400年前の奴隷船、1960年代の公民権運動時代の教会爆破事件で亡くなった4人の少女、2014年に白人警官に射殺されたティーンエイジャーの遺影が描かれている。過去400年でアメリカはどれほど変化したのか、またはしなかったのか。しかし、黒人運動のリーダー、キング牧師はunstoppable(制止できない)として描かれ、マイルス・デイヴィスやビリー・ホリデイなど稀有のジャズ・ミュージシャンたちはunbelievable(信じられないほどの)だ。モハメド・アリ、セリーナ・ウィリアムス、レブロン・ジェームズは世界に名だたる一流アスリートとなったが、その背後には無数のundiscovererd(未発見の、無名の)選手がいる。生きた時代も、有名無名も問わず、黒人たちはこれまでunspoken(語ることのない)だったが、もはやuntitled(無題の、称号のない)ではない。同様に、かつて"セントラルパーク5"と呼ばれた5人の少年たちも今は40代となり、全員が過去の苦難の影を引き摺りながらも、強い意志によって人生を再生させているのである。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
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