フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で 書評|山辺 省太(彩流社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月22日 / 新聞掲載日:2019年6月21日(第3294号)

フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で 書評
読む者をとらえて放さない魔力
オコナーという作家と作品理解への道筋を示す

フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で
著 者:山辺 省太
出版社:彩流社
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 フラナリー・オコナーの作品を初めて読んだときのことはいまでもよく覚えている。大学二年の夏、作品はオコナーの短篇「作り物の黒人」だった。祖父と孫が慣れない都会にやってくるのだが、祖父が目を離したすきに孫はトラブルに巻き込まれてしまった。孫を探してやってきた祖父は人々に囲まれている孫を見て、とっさに無関係を装ってしまう、という物語だ。読了したときには、なんともいたたまれない感覚におそわれ、二度とこの作品を読むものかと思ったほどだった。その後他のオコナー作品にふれるたびに、やはりいたたまれない気持ちになるということを繰り返してしまうのだ。

オコナーの作品は、自分の中でどう落としどころを見つければいいのかが見つけづらいにもかかわらず(あるいはだからこそ)、読む者をとらえて放さないという魔力があるように思われる。バイブルベルトである南部ジョージア州においてカトリック作家として作品を執筆しつづけたオコナーは、日常生活の中で突然降りかかる暴力(もしくは暴力的な出来事)と、それによって顕現する神の恩寵を描いているという議論はこれまでにもなされているが、そうした考察は理解できるようでいて自分の手をすり抜けていくような感覚もあった。しかし、このたびオコナーの作家としての姿勢と、彼女の宗教と日常への眼差しを詳細に分析し、作品理解への道筋を示す一冊が刊行された。山辺省太氏の『フラナリー・オコナーの受動性と暴力』がそれである。

本書は序章のほか全九章で構成されており、取り上げられる作品は長編『賢い血』をはじめ、「善人はなかなかいない」「善良な田舎者」「パーカーの背中」などの代表的な短篇、さらに『激しく攻めるものはこれを奪う』といったオコナー作品の中ではそれほど評価されてこなかった作品を含む。全体の議論の枠組みは、序章「文学と神学の狭間で」における綿密かつ刺激的な議論によって支えられているため、各章が説得力を持った作品論として胸にせまってくる。本書は、オコナーは神という超越した存在への道を示すために、あくまで「現前の現実空間」を描いたリアリズムの作家である、ということを前提とし、そこにレヴィナスを応用した暴力と主体の受動性を重ねることで、その受動性の先にある浄化と恩寵へとオコナー作品がいかに接近しているか、その可能性が考察される。

各論では、オコナー作品に見られる暴力と倫理、グロテスクと恩寵、隠匿と開示、暴力を通じた非暴力などの、一見すると矛盾しているかにみえる出来事が、いかにオコナーの中で神の啓示として矛盾することなく(むしろ必要不可欠な要因として)描かれているかを解き明かす。その議論の過程はスリリングであるとさえいえるほどだ。とくに「善人はなかなかいない」と「善良な田舎者」を論じた第三章は、ミスフィットの暴力を「主体の呼びかけ」とし、その暴力性を通じて非暴力が描かれることが論じられ、さらに殺人者の神との「出会いそこない」続けることによる神への接近と共鳴していることが示される。このことは、序章で明らかにされる本書の立場、すなわちグロテスクなものを描きつつ、あくまで「現実」を描き、そこに神の啓示を読み取るオコナーという理解へと繋がっている。「作り物の黒人」と「高く昇って一点へ」に見られるオコナーの黒人への意識について議論される第五章と第九章も特筆すべきであろう。

いたたまれない気持ちになることがわかっていながらも、ふと読みたくなってしまうオコナー作品であるが、その抗えない魅力が深い考察とともに解き明かされる一冊である。
この記事の中でご紹介した本
フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で/彩流社
フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で
著 者:山辺 省太
出版社:彩流社
以下のオンライン書店でご購入できます
「フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で」出版社のホームページはこちら
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