キュー 書評|上田 岳弘(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月22日 / 新聞掲載日:2019年6月21日(第3294号)

キュー 書評
「人類小説」の極致
人類の作り出す未来が、明るいものであると信じる

キュー
著 者:上田 岳弘
出版社:新潮社
このエントリーをはてなブックマークに追加
キュー(上田 岳弘)新潮社
キュー
上田 岳弘
新潮社
  • オンライン書店で買う
上田岳弘は「人類小説」の書き手だ。膨張し続ける欲望の果てに、人間が完成させた錬金術と不老不死の術を描いたデビュー作『太陽・惑星』。人類の歴史を十万年というスパンで振り返り、種の拡張・国家間の侵略戦争・情報技術の進歩の三つのレイヤーにわけて思弁しつつ、その未来予測を物語として綴った『私の恋人』。上田岳弘はこうしてとにかく大きなスケールのなかで物語を描き、人類の始まりと終焉を見続けてきた。芥川賞受賞作の『ニムロッド』も同様だ。

本作は作者が追求してきた「人類小説」の極致である。物語の主人公、立花徹はあるクリニックの心療内科医である。徹には忘れられない女性がいる。その女性は、高校時代の友人で、「私の中には第二次世界大戦が入っているの」と語る渡辺恭子。彼女は自身の前世は椚節子だったと言い、広島の原爆によって命を落としたのだと言う。普通は病的だと疑われても仕方のない言説に、徹の心はどこか引っかかっていた。

徹の祖父は寝たきりだった。施設に預け、あとは死を待つだけだった。しかし、その祖父が起き上がり、渡辺恭子へと接近するところから物語は動き出す。徹はある調査組織に属する武藤という男と三津谷という女性に拉致をされる。祖父の元へ連れて行けというのだ。寝たきりの祖父に何の用があるかもわからず、徹は祖父のいるはずの銚子へ向かう。だが、そこには祖父はいなかった。

祖父を探して奔走する武藤と徹。ようやく見つけた時には、祖父は恭子と共に東京スカイツリーにいた。そして、彼らはスカイツリーよりはるかに高い塔へと、急ごうとしていたのだ。

祖父は戦前、石原莞爾の盟友として日本軍で活躍していた。特に満州国を作り上げるときは獅子奮迅の活躍だった。そんな石原莞爾から、祖父は世界はやがて《世界最終戦争》を迎えると教えられる。そしてそのときに必要なのが、距離も時間も超えて、物事の実体を内面化することができる恭子だったのだ。

では《世界最終戦争》とは何か。作中、世界は「錐国」と「等国」に分けられる。「錐国」も「等国」も世界を一つにまとめる目的は同じなのだけれど、異なるのはベクトルの向きだ。「錐国」とは一人の人間を頂点に据え、彼・彼女に全てが集積される錐体の世界を指す。一方で、「等国」は全ての権利、物事、生命を平等にする水平のベクトルを持つ。それは現在の我々の世界よりもはるかにあらゆるものが「等しい」。その際に大事なのが《個の廃止》と呼ばれるパーミッションポイントだ。

この世界では人間が必ず通過する特異点のことをパーミッションポイントと呼ぶ。例えば、《文字の発生》や《原子力の解放》だ。《予定された未来》では個は全て溶けて、一つになっている。その際に、「錐国」が世界の覇権を握りしめているのか、「等国」がその野望を防いでいるのか。徹、恭子、祖父、武藤らはその戦いに巻き込まれていく。もちろん、「錐国」の考えていることは危険だ。だから、それに抗う必要がある。日本国憲法九条。その条文も、戦いの武器になる。

作中では、七百年後に一人だけ生き残った人間が出てくる。彼が見た世界では、Rejected Peopleと呼ばれる人造人間が我々のような日常を送っていた。そこは寂寥感で満ち溢れている。

作者は人類を信じている。人類の作り出す未来が、明るいものであると信じている。同時に、それを邪魔する人類がいることも知っている。それを打ち破ること。物語はその蒙を啓くために紡がれる。
この記事の中でご紹介した本
キュー/新潮社
キュー
著 者:上田 岳弘
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
「キュー」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
長瀬 海 氏の関連記事
上田 岳弘 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文学 > 日本文学関連記事
日本文学の関連記事をもっと見る >