現代写真アート原論 「コンテンポラリーアートとしての写真」の進化形へ 書評|後藤 繁雄(フィルムアート社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月22日 / 新聞掲載日:2019年6月21日(第3294号)

現代写真アート原論 「コンテンポラリーアートとしての写真」の進化形へ 書評
インスタグラム時代の 写真史の再編へ向けて

現代写真アート原論 「コンテンポラリーアートとしての写真」の進化形へ
著 者:後藤 繁雄、港 千尋、深川 雅文
出版社:フィルムアート社
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 なぜ今、「コンテンポラリーアートとしての写真」を振り返るのか。その背景に、現在写真が直面するパラダイムシフトとの関連を見いだすことができる。
写真は20世紀を通じて、単なる記録媒体であることを超え、フォトジャーナリズムやアマチュア的表現と接しながら、新たな芸術性を切り開いてきた。しかし、本書が対象とするのはプリント主体の写真家ではない。70年代以降に画像の加工やインスタレーションを前提とした作家像を中心に、ポストモダン的感性にもとづく写真史の再編を目論む。鼎談形式をとることで、展覧会による再評価やマーケットの動向を描き出しているのも特徴的だ。
写真史の再編をうながす参照点となっているのは、スマートフォンやSNSの普及とともに誰もが写真を撮影し、加工し、拡散するようになり、かつてないネットワークを形成しつつある現状である。すなわち、コミュニケーション・メディアとして、写真の使われ方がクローズアップされているのだ。

その意味で、偶然の瞬間を切り取る写真の作法を放棄し、周到な演出や加工、編集的要素を取り入れた、ジェフ・ウォールやトーマス・ルフ、ヴォルフガング・ティルマンスらの作品は古典となりつつある。ウォールは、絵画史からの巧みな引用により日常を思わせる場面を丁寧に作り込み、物語を構築する。ルフもウォールと同じく70年代から活動を開始するが、90年代末以降、インターネットから入手したポルノ画像を引き伸ばし、デジタル加工した《nudes》(1999-)や圧縮された画像を引き延ばして展示した《jpeg》(2002-)など、デジタルデータによって流通し消費されるイメージの特質を鮮やかに突きつける。ティルマンスは、93年の最初の個展から新聞や雑誌の切り抜きなどを写真と並置して展示し、サンプリング・リミックスのような手つきで個人史を時代のサンプルとして相対化していく。

それだけでなく、写真史の二大ジャンルである風景と肖像がインフラ化しつつある。グーグルアースやストリートビューにおいて、写真は位置情報と結びついたサービスとして提供され、二次利用されており、肖像は顔認証システムにより、もはや電話番号や住所、購入履歴等の膨大な個人情報と一体化している。これに対して示唆的なのは、シンディ・シャーマンとソフィ・カルの作品だ。マスメディアの記憶の中に形成されたアメリカの典型的な風景と肖像を自作自演で撮影して顕在化してみせたシャーマンの《Untitled Film Sti-tills》(1977-80)。道端で拾ったアドレス帳の住所録ひとつひとつを訪問し、持ち主についての聞き取りを実施、その写真とインタビューを無断で日刊紙『リベラシオン』に連載して発表してしまうカルの《The Address Book》(1983)。カルの作品において虚構と事実を分ける主体は存在せず、むしろ分けることに意味がないように巧みに構成されている。

惜しまれるのは、本書で鍵となるヴィレム・フルッサーの「テクノ画像」の解釈が、システム論やAIによる画像処理を反映した作品論に結びついていない点だ。今なお、写真史の再編は過渡期にあるのだ。
この記事の中でご紹介した本
現代写真アート原論 「コンテンポラリーアートとしての写真」の進化形へ/フィルムアート社
現代写真アート原論 「コンテンポラリーアートとしての写真」の進化形へ
著 者:後藤 繁雄、港 千尋、深川 雅文
出版社:フィルムアート社
以下のオンライン書店でご購入できます
「現代写真アート原論 「コンテンポラリーアートとしての写真」の進化形へ」出版社のホームページはこちら
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