山田詠美 ロングインタビュー(聞き手=倉本さおり) 小説(フィクション)から事件(リアル)に迫る 『つみびと』(中央公論新社)刊行記念|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年6月21日 / 新聞掲載日:2019年6月21日(第3294号)

山田詠美 ロングインタビュー(聞き手=倉本さおり)
小説(フィクション)から事件(リアル)に迫る
『つみびと』(中央公論新社)刊行記念

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第2回
先入観を持たせない語り

――この作品は構成が本当にしっかりしていて、叙述の並べ方が見事です。琴音なり蓮音なりの人生を、順序立てて語っていけば、最初から二人の女性に感情移入するモードになってしまう。ところが、この作品はそういう形を取っていません。最初に蓮音は「鬼母」「ひどい母親」であることを突きつけておいてから、事実をあまり時系列に沿わずに、ぽんぽんぽんと思い出していく語りになっています。
山田 
  そういう語りって、私の小説では結構あることなんです。時間軸に沿って順番に書くのは簡単なんだけれど、人の心にはグッと来ないでしょ? 子どもの頃からこういう育ち方をして、こんな経験をしているから、悲惨な事件を起こすことになってしまったと書けば、わかりやすい。でも、人生ってもっと複雑なものだし、そこにどんな横やりが入ってきたんだろうと読者に思わせることによって、先まで読みたくさせる。このスタイルは、今回も成功していると思います。

――とんでもない事件が起こると、マスコミや世間一般は、どうしても理由をつけたがりますよね。何か順序立てて、物事を説明しようとする。この小説は、そうした因果関係を無理やり見出そうとする語りに対する反駁にも受け取れました。また、新聞や雑誌、テレビを見ていると、「ちゃんと更正させてあげなきゃ」みたいな論調が多い。そういう「上から目線の正義」に対する批判も込められているように感じられました。
山田 
  ひどい事件が起こると、みんな道徳家になっちゃうんですよね。それで、「何を言われても仕方がない」という人を一旦見つけると、どんどんそちらの論調に流れていく。その方が楽だし、それ以外のことを考えない人たちって多いと思いますね。逆に「それは違うんじゃないか」なんて言ったとしたら、袋叩きにされてしまう。これは今の時代にはじまったことじゃなくて、昔からそうだったんだと思います。現代はインターネットとか、ツールが発展しているから、すごくわかりやすい形で見えるだけであって、人間の心の深層には、そういう面がありますよね。

――琴音が性的虐待を受けたことは、物語の前半から仄めかされてはいますが、核心が語られるのはだいぶ後の部分になります。ここも意識的だったのでしょうか。
山田 
  そうです。

――最初に事実が語られてしまうと、読者がどうしても先入観をもって見てしまう。それを避けたかったということでしょうか。
山田 
  さっきの話にも繋がることだけれど、子どもの頃にこういう酷い目にあったから、こうなってしまったんだと、単純に読んでしまうでしょ。でも、たとえば、目の前に変な人がいるとしますよね。なんの情報もなく、その人を見るのと、あらかじめどんな人生を歩んできたかを知った上で見るのとでは、全然違うと思うんですね。まったく何も知らずに、そのまま変な人を見て、後から、実はこんな裏の事情があったんだとか、心の傷があったんだということを知るのとでは、全然印象が変わる。そこはかなり意識して書いています。読者にも、登場人物たち自体にも、先入観を持たせないようにしたかったということです。     
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この記事の中でご紹介した本
つみびと/中央公論新社
つみびと
著 者:山田 詠美
出版社:中央公論新社
「つみびと」は以下からご購入できます
「つみびと」出版社のホームページはこちら
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