漢字点心
「かお」と訓読みする漢字。山口誓子に、「かりかりと蟷螂(とうろう)蜂の㒵(かお)を食(は)む」という句がある。二〇年以上前、高校の国語教科書の編集部に勤めていたころのこと、当時はパソコンではこの漢字が出せなかったので、先生方にお渡しする教科書の本文データ用に、専用ソフトで一生懸命作字をした思い出がある。
この句が教科書にのるほどの名句たるゆえんの一つは、「㒵」という字の形が蜂の顔を思わせるところ。ただ、当時はどうしてこれで「かお」と読めるのかなど、考えもしなかった。漢和辞典の編集部に移ってから、「容貌」の「貌」に「かお」という訓読みがあり、その右半分の「皃」だけが、独立して略字のように使われることを知って、ようやくつながりが理解できたことだった。
つまり、「㒵」が蜂の顔のようにも見えるのは、偶然でしかない。しかし、偶然からかけがえのない価値を生み出すところにこそ、文学の本領があるのだろう。(えんまんじ・じろう=編集者・ライター)
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更新日:2019年6月25日
/ 新聞掲載日:2019年6月21日(第3294号)
㒵

この句が教科書にのるほどの名句たるゆえんの一つは、「㒵」という字の形が蜂の顔を思わせるところ。ただ、当時はどうしてこれで「かお」と読めるのかなど、考えもしなかった。漢和辞典の編集部に移ってから、「容貌」の「貌」に「かお」という訓読みがあり、その右半分の「皃」だけが、独立して略字のように使われることを知って、ようやくつながりが理解できたことだった。
つまり、「㒵」が蜂の顔のようにも見えるのは、偶然でしかない。しかし、偶然からかけがえのない価値を生み出すところにこそ、文学の本領があるのだろう。(えんまんじ・じろう=編集者・ライター)

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