憲法と政治 / 青井 未帆(岩波新書)市民としての力量が問われる 「市民の常識」を支える土台が変化した日本|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年1月6日 / 新聞掲載日:2017年1月6日(第3171号)

市民としての力量が問われる
「市民の常識」を支える土台が変化した日本

憲法と政治
出版社:岩波新書
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憲法と政治(青井 未帆)岩波新書
憲法と政治
青井 未帆
岩波新書
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ここ数年で、長年に亘って維持されてきた慣行や習律が次々と覆され、日本の政治が放つ雰囲気が一気に変わったように感じる。2016年5月に上梓した『憲法と政治』(岩波新書)では、主として憲法9条・平和主義をめぐり、政治が憲法を乗り越えてゆく様を切り取ろうとした。政治がこれまでとは相当に異なった局面を迎えているのに、社会に暮らす私たちの意識は変化のスピードについていっていないのではないかという危機感が、本書執筆の背景にある。

日々の生活を送る上で、私たちは専門的な法的知識を持っていなくとも、「常識」に従って判断し行動していれば、特段の問題は生じない。通常、常識的判断が、最も妥当な判断である。しかし、日本の政治については、そういう理解はもう通用しないのではないか。「なんとかなるだろう」とタカをくくっていることができないほどに、「市民の常識」を支える土台が変質したからだ。

統治の仕組みについて言えば、大きく権力のバランスが崩れて、内閣に傾いている。たとえば、内閣は集団的自衛権の行使にかかわる判断権を持つことになり、特定秘密の指定を受けるような機微な情報を集中的に持つこととなった。しかし内閣が強くなる一方、国会での議論はといえば、TPP承認やカジノ法案の審議にも見られたように、さらに軽くなっている。強行裁決も繰り返されて、「普通のこと」になりつつあるようでもある。裁判所は、その活性化が指摘されてきていたが、近時の沖縄辺野古基地訴訟や厚木基地訴訟などは、国の施策を追認したり後押ししたりしており、権力抑制とは逆の積極性を発揮しつつあるようにも見える。

なんとなく「日本の政治は本当にこれでいいのか」「なにか変なのではないか」という感じを持っている人も少なくないだろう。そのようなもやっとした不安な状況を、本書が幾らかでも言語化できていれば幸いである。

もし強引な流れに身を任せるならば、「おかしいこと」も「おかしい」とは感じられなくなっていく。市民が「まあ、仕方ない」と認めたら、横暴で専断的な権力を欲する者の登場を容易にすることだろう。

憲法とは、国家が心の中に踏み込まないようにする、いわば防波堤のようなものである。明治憲法の下で防波堤は一度決壊し、国防国家の名の下に私たちの自由が極端な危機に瀕した。今、再び同じことが起こらないだけの強さを私たちの社会は持っているか。

政治が憲法に従ってなされるという立憲主義は、統治に関わる諸機関の協同なしには確保されない。内閣の権限行使が適正であることを、国会や裁判所が適切にコントロールしなければならないのである。そして、それが成功するためには、私たち市民の支えが要である。立憲主義・民主主義をこれからどう育てていくか、改めて市民としての力量が問われていよう。

諦めることなく、知恵を絞って、政治が憲法に従うことを求め続けよう。これが本書に込めた思いである。
この記事の中でご紹介した本
憲法と政治/岩波新書
憲法と政治
著 者:青井 未帆
出版社:岩波新書
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