モダンムーヴメントのD・H・ロレンス デザインの20世紀/帝国空間/共有するアート 書評|木下 誠(小鳥遊書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月29日 / 新聞掲載日:2019年6月28日(第3295号)

モダンムーヴメントのD・H・ロレンス デザインの20世紀/帝国空間/共有するアート 書評
飼い慣らされし モダンムーヴメントを解放せよ

モダンムーヴメントのD・H・ロレンス デザインの20世紀/帝国空間/共有するアート
著 者:木下 誠
出版社:小鳥遊書房
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本書が、ノッティンガムシャーの炭坑夫の息子で、『チャタレー夫人の恋人』などで知られるイギリス作家D・H・ロレンスをめぐる研究書であることは確かだ。だが、本書のさまざまな主張を、ロレンス読解としての適切性という観点のみで読めば、その批評的可能性を見落とすことになるだろう。

その批評的可能性を理解するには、題名を構成するもうひとつの言葉、「モダンムーヴメント」の十全たる意味を理解する必要がある。これについて、本書が出発点としつつくり返し立ち戻るのは、レイモンド・ウィリアムズだ。社会の変化を信じられず個人的解決に向かってしまった戦後イギリスの心性をロレンスの一部が用意した、というウィリアムズの評価の、「一部が」という言葉を、木下は字義通りに捉え、読み抜く。その「一部」以外の「別のロレンス」はどこへ行ったのか?

ロレンスの読解を部分的なものにしてしまったのは、彼を正典的モダニズムに囲い込んだ批評の系譜である。ロレンスはそれにはとどまらない系譜に属している。それは、「すべてのひとが共有できないのであるならば、いったいアートになんの用があろうか」と喝破したウィリアム・モリスの系譜だ。これはつまり、レイモンド・ウィリアムズが『文化と社会』で示した、アートを特権的ではない「ふつうの」もの、共通文化としてとらえる系譜であろう。共通文化とは、単に共有されたものではない。それは社会の成員の参加によって作り出され、社会に変化をもたらしもする。

「モダンムーヴメント」とは、そのような「変化をもたらす社会的エージェンシー」(ウィリアムズ)の別名にほかならない。本書はロレンスをモダンムーヴメントの系譜に置き、またジェド・エスティの「人類学的転回」との対話において読解しつつ、懐旧的なミドルブラウ詩人として片づけられがちなジョン・ベッチマンや、「モダンムーヴメント」という言葉の生みの親である建築・美術史家のニコラウス・ペヴスナーの再評価によって文化的風景を拡張していく。

そのような議論を展開する木下の思考は着実そのものだ。作品と一次資料の読解によって、近代の骨にこびりついた肉を削り取り、その骨さえも削って骨の髄を白日の下にさらしていく。だがその着実な歩みが指し示す地平線は遙か遠い。ここに私たちが見いだすのは、モダニズム的読解によって不可視のものとされていた別のロレンス、別の近代という遙かな地平線なのだ。

評者としては、この「別のロレンス/別の近代」の探究の、現代的な意義を強調しておきたい。ウィリアムズは、ロレンスが革命と再生という考えのあいだで揺れ動き、「変化をもたらす社会的エージェンシー」をくり返し却下したと指摘しており、本書はそのくり返された却下を意義あるものとして捉え返す。現在、革命と変化は新自由主義的な体制の専有物となっており、私たちの社会を変化させながら再生するという一種のラディカルな保守主義は、想像不可能なものになっている。残滓化したロレンスのモダンムーヴメントを取り囲んで隠し去っていた柵を焼き払い、それを解放することは、そのような現在において、社会の私たちの意志による変化を構想する上で決定的な重要性を持ちうる。ロレンスを論じながら木下が指さすのは、私たちが現在を乗り越えるための道でもある。そのような水準で読んでこそ本書の真価は理解できるのだ。
この記事の中でご紹介した本
モダンムーヴメントのD・H・ロレンス デザインの20世紀/帝国空間/共有するアート /小鳥遊書房
モダンムーヴメントのD・H・ロレンス デザインの20世紀/帝国空間/共有するアート
著 者:木下 誠
出版社:小鳥遊書房
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