「ストーリー漫画の父」テプフェール 笑いと物語を運ぶメディアの原点 書評|森田 直子(萌書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年6月29日 / 新聞掲載日:2019年6月28日(第3295号)

「ストーリー漫画の父」テプフェール 笑いと物語を運ぶメディアの原点 書評
「世界初の漫画家」を論じる本
日本の「マンガ表現論」、漫画研究にも重要な指摘

「ストーリー漫画の父」テプフェール 笑いと物語を運ぶメディアの原点
著 者:森田 直子
出版社:萌書房
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ロドルフ・テプフェールは、ストーリー漫画(絵と文字からなるコマを複数配置したページの連続によって物語を伝える)本を、世界で初めて出版した人物である。同時に、絵と文字を混交させた表現の理論化をも試みており、少し強引にいえば世界初の漫画研究者でもあった。本書は、テプフェールが生み出した表現様式の特色を、彼自身の人生やそれを取り巻く社会的背景、彼が受けた他メディアからの影響などにも注視して論じている。

著者である森田直子氏による初のテプフェール論は、おそらく「ロドルフ・テプフェールの『版画文学』理論――コミックの本質としての描線と顔」(『マンガ研究』九号、二〇〇六年)である。この論文で、テプフェールの作品や彼の発表した理論が、夏目房之介氏らによって発展してきた日本の「マンガ表現論」と共通する視点を含むものであることが指摘された。そしてこの論文の発表以降、テプフェールの作品や彼の仕事をめぐる議論が、徐々に日本語でも論じられたり、翻訳出版されたりするようになった。つまり、日本の漫画研究者にテプフェールの存在とその重要性を知らせてくれたのが森田氏であったといってよいだろう。その森田氏によるテプフェール論が、初めて単独で書籍化されたのが本書である。

とくに本書に独特な論点は、「笑い」「演劇」「本」である。以下、議論の一部を紹介する。テプフェールの漫画はどれも笑いを多く含んでいるが、それは「周囲の人を笑わせる」という彼の個人的な創作の動機と、喜劇から受けた影響による。喜劇の影響は、笑える物語展開という部分だけでなく、室内劇の空間使用法、大ゴマで多くの登場人物を描く「見せ場」などの技法面にも見られる。また、テプフェールはすべての作品を横長の判型で出版したが、この判型は表現の効果と関係している。ページ全体に大きな一つのコマを配置すれば、空間の広がりを感じさせることができ、一方ページを縦割りすれば、時間経過を表現しやすい。さらに、読者の左→右という視線の動きと登場人物の進行方向を一致させたり、あるいはあえて逆方向に描いたりすることで、読者が感じるスピード感をうまく調節している。

十九世紀の漫画的表現に、現代の漫画の視線誘導にも通じる工夫が見出せるという点は大変興味深い。物語展開やレイアウトなどに見られる演劇からの影響も、類書『テプフェール マンガの発明』(ティエリ・グルンステン/ブノワ・ペータース、法政大学出版局、二〇一四年)でもあまり論じられていなかった視点であり、重要な指摘である。この議論は、手塚治虫作品など舞台的表現を取り入れたとされる漫画表現、また近年ブームになっている漫画の舞台化などについて考える際にもヒントになるだろう。

ちなみに巻末には、『ジャボ氏の物語』の日本語訳が収録されている。この作品が邦訳されたのはこれが初めてであり、本書の議論を理解するうえで大きな助けになるだけでなく、とてもお得な付録でもある。
この記事の中でご紹介した本
「ストーリー漫画の父」テプフェール 笑いと物語を運ぶメディアの原点/萌書房
「ストーリー漫画の父」テプフェール 笑いと物語を運ぶメディアの原点
著 者:森田 直子
出版社:萌書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「「ストーリー漫画の父」テプフェール 笑いと物語を運ぶメディアの原点」出版社のホームページはこちら
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