第五回 日本翻訳大賞・授賞式 レポート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年6月28日 / 新聞掲載日:2019年6月28日(第3295号)

第五回 日本翻訳大賞・授賞式 レポート

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第五回を迎えた日本翻訳大賞の授賞式が四月末、東京・駿河台のデジタルハリウッド大学で行われた。選考委員は金原瑞人、岸本佐知子、柴田元幸、西崎憲、松永美穂の各氏で、2017年12月1日から2018年12月31日までに日本語に翻訳された公刊物を対象としている。一般読者のウェブ上での推薦と各選考委員の個別推薦を経た最終候補五作のなかから、『ガルヴェイアスの犬』(ジョゼ・ルイス・ペイショット著、木下眞穂訳、新潮社) と『JR』(ウィリアム・ギャディス著、木原善彦訳、国書刊行会)が大賞に決まった。

最終候補作はこの二作のほかに『奥のほそ道』(リチャード・フラナガン著、渡辺佐智江訳、白水社)、『自転車泥棒』(呉明益著、天野健太郎訳、文藝春秋)、『すべての、白いものたちの』(ハン・ガン著、斎藤真理子訳、河出書房新社)だった。岸本氏は選考は「自分のなかで激戦」で、松永氏も、どれもよくてすごく悩んだと話した。柴田氏も「今回の五作は今までのなかで一番レベルが高かった」と振り返る。
柴田氏は受賞作『JR』についてこう評した。「900頁くらいある画期的な翻訳。すごく難解で、読んでいるうちに奥の深い部分が出てくるのかな、と読み進めるが出てこない。1975年の作品で、63年にはピンチョンの『V.』が出ている。ギャディスは50年代から書いているが、『V.』と『JR』の対比はおもしろい。「V.」は多義的だが「JR」には何の意味もない。ほとんど会話で、会話のあいだに語り手の説明が最低限でてくるだけ。チャプターの切れ目もない。つぎつぎに別のひとから中断されるちぐはぐな会話。翻訳としては誰がそれを言っているか、はっきりさせてくれないと困るし、そのちぐはぐさの面白さを伝えてもらわないと困る。個人の見解では柳瀬尚紀のジョイス訳、佐藤良明のピンチョン訳に匹敵する素晴らしい仕事だと思います」。
続いて松永氏が『ガルヴェイアスの犬』について紹介した。「ペイショットさんのふるさとでもある小さな村に巨大な「名のない物」が落ちてくる。ガラスが割れ、ものが吹っ飛び、鼓膜が破れる人もいる。熱や匂いを発する「物体」、村の様子が一変するような出来事がみなを不安に陥れる。村のあちこちにいる犬たちも観察者で、犬の視点からの物語も入っている。お腹をすかせていたり、不安におびえていたり、あるいは雄犬が雌犬をおっかけたり、犬の姿が人間の姿と重なってくる。むきだしの暴力や性もでてくるが、その荒々しさの一方で、いろいろな村人のこまやかな心の内も描かれている。力強さと繊細さを両方そなえた作品。翻訳は知的な作業だが、木下さんは作品に体当たりしていると思う」。

さらに受賞作の訳者の二人が「受賞の言葉」を語った。木下氏は「日本翻訳大賞が大好きで、昨年も一昨年も、そちら側に座って参加した。思いもかけないうれしい幸運がついて回っている。ペイショットさんの作品を長年読んできて、たまたま2015年にペイショットさんが日本に来ていることを耳にし、東京外語大での特別講座を聴くことができた。そこで知り合って、あなたの作品の翻訳をしたいと伝えた。

その後『ガルヴェイアス』を送ってくださり、読み終わったときに本当に素晴らしい作品なのでどうしても日本語に訳したいと思い、あちこちでつぶやいていた。翻訳家の鴻巣友季子さんに後押しされて企画を出してからだいぶ時間が経ったが、まさかクレスト・ブックスで出せるとは思っていなかった。

翻訳は本当に孤独な作業。もともと詩人のペイショットさんの文章は少し変わっていて、訳しながらこれでいいのか、本当に出せるのかと思った。一昨年の受賞作『すべての見えない光』(アンソニー・ドーア著、藤井光訳、新潮社、2016年)について、柴田さんが冒頭の一文や句読点の置き方がすばらしいとおっしゃっていた。私もペイショットさんのリズム、語感を取り込んで、それを日本語として伝えたいと思ってやってきた。

ポルトガル語の文学は日本での紹介が遅れている。これを機によりいっそうみなさんに届けられるひとつのステップになれば、そしていまポルトガル語を勉強している若い人たちが、ポルトガル語文学をやりたいと思うきっかけになってくれたらいいと思います」。

木原氏は「学生時代から憧れていた翻訳家のみなさんによって選ばれる日本翻訳大賞を、昔からずっと訳したいと思っていたギャディスの『JR』という作品で受賞したことはたいへん幸せであり、光栄であり、名誉なことです。この傑作を書いた偉大な作家、ウィリアム・ギャディス氏〔1998年死去〕にも、著作を愛する読者の一人として深謝いたします。今後も、この賞をいただいたことをはげみにして、体力の続く限り続けていきたいと思います」と語った。

ペイショット氏からのメッセージビデオや木下氏・木原氏・柴田氏の鼎談、楽器演奏、受賞者による受賞作の朗読と、豪華で充実した時間が続いた。
この記事の中でご紹介した本
ガルヴェイアスの犬/新潮社
ガルヴェイアスの犬
著 者:ジョゼ・ルイス・ペイショット
翻訳者:木下 眞穂
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
JR/国書刊行会
JR
著 者:ウィリアム・ギャディス
翻訳者:木原 善彦
出版社:国書刊行会
以下のオンライン書店でご購入できます
「JR」出版社のホームページはこちら
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