夜に抗して闘う者たち ジョン・レノン、ロベルト・ボラーニョ、桐山襲 書評|原 仁司(翰林書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月6日 / 新聞掲載日:2019年7月5日(第3296号)

夜に抗して闘う者たち ジョン・レノン、ロベルト・ボラーニョ、桐山襲 書評
令和元年という「夜」に抗して
時代への根源的な批評の書

夜に抗して闘う者たち ジョン・レノン、ロベルト・ボラーニョ、桐山襲
著 者:原 仁司
出版社:翰林書房
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時代への根源的な批評(批判)の書であり、その時代とは、具体的には一九八〇年代、すなわち大衆社会が消費文化と結びついたポストモダニズムと呼ばれた状況である。それはもちろん過去の一時期の現象ではなく、今日にまで続いているものだ。

対象として取り上げるのは、一九八〇年十二月に射殺されるジョン・レノン、作家のロベルト・ボラーニョ、そして一九九二年に四十二歳で亡くなった『パルチザン伝説』の作家桐山襲である。

まず、ジョン・レノン現象とは何か。それは「愛と平和の使徒」としての物語を流布し、大衆はジョン・レノンを偶像化して(オノ・ヨーコが巧みに通俗的プロパガンダをなし)、そこで安易な「神話」化が行なわれる。

《神話的な物語がもたらす暴力は、ファシズムや強大な国家権力の専売特許ではない。愛と平和を求める革命的闘争または日常的闘争においてさえも、それはこれまでも単発的ないしは継続的な暴力を介して一定の脅威と影響を社会にもたらして来た。(中略)あるいはすでに「すべての人々が世界を分かち合っていると」想像する集団的善夢は、人間の実在を半透明な没知性の被膜で覆い尽くしているのかもしれない》

著者の批判はラディカルである。それは政治イデオロギー批判ではなく、時代の無自覚な「想像力」(ジョン現象はまさにその象徴である!)という名のイデオロギーへの根底的な批判だからである。日本の八〇年代とは、まさにこの「空気」としてのイデオロギーが、「文化」として横溢していった時代であった。

《とりわけ日本においては、80年代はおおむね政治性の脱色が国民全体の深層的合意の上に成立した時代であり、その時代の前半を席捲していたニューアカデミズムという空漠たる思想の正体は、サルトル的「想像力」からジョン・レノン的「想像力」への転移――クリスタルな無知への投企――を背景にして、流行の西洋思想(フーコー、バルト、デリダら)を、それが本来深刻に内蔵していたはずのキリスト教イデオロギーとの〈対決〉を凍結したまま、軽はずみな「知」のダイブで跳び越え、ライスカレー式の模造を新奇な「ヌーベル・キュイジーヌ」として大衆(消費者)に提供したものであった》

もちろん著者はサルトルの再評価をしたいのではなく、その時代的限界を見すえつつも、八〇年代以降の軽薄な「半透明な没知性」状況をえぐり出そうとしているのだ。ちなみに、この「没知性」とは、今日いわれるような「反知性主義」ではない。逆に、「反知性主義」批評を云いたてるような普遍的な「知性」(著者の的確な表現でいえば、「想像する集団的善夢」)こそ、むしろ批判されるべき「文化」そのものである。

文学とは本来、この「物語」・「文化」批判の役割こそ荷なわなければならないはずであるが、八〇年代以降の日本文学は、結局のところこの「集団的善夢」にほとんど加担してきた。本書の「ロベルト・ボラーニョについて ②「はるかな星」」での大江健三郎への批判は、その意味でまことに正鵠を射ている。

では、八〇年代以降、このふしだらな言語状況へ抗した作家はいたのか。それは本書の後半で詳述される桐山襲である。今日「忘却された作家」たる桐山こそ、ポストモダンやニューアカデミズムが喧伝される状況下にあって、「『言葉の死』(言語の空洞化)をひたすら凝視しつづけた者として、記憶にとどめるべき作家である」と著者は明言する。七〇年代の連合赤軍事件以降に暗礁に乗りあげた「左翼イデオロギー」が、逃避するように南島論や民俗学へ向ったのにたいして、桐山は「文学による表現」で、大衆消費社会の言語喪失とあくまで闘う姿勢をとった。この桐山襲の再発見(というよりは「発見」)は、本書の全体を貫くモチーフ、すなわち「夜」の正体をあきらかにする。令和元年という「夜」の時に、実に刺激的な、読みごたえのある文芸批評の書であると思う。
この記事の中でご紹介した本
夜に抗して闘う者たち ジョン・レノン、ロベルト・ボラーニョ、桐山襲/翰林書房
夜に抗して闘う者たち ジョン・レノン、ロベルト・ボラーニョ、桐山襲
著 者:原 仁司
出版社:翰林書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「夜に抗して闘う者たち ジョン・レノン、ロベルト・ボラーニョ、桐山襲」出版社のホームページはこちら
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