小説を読むための、そして小説を書くための小説集 読み方・書き方実習講義 書評|桒原 丈和(ひつじ書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月6日 / 新聞掲載日:2019年7月5日(第3296号)

小説を読むための、そして小説を書くための小説集 読み方・書き方実習講義 書評
創作、そして文学研究のために 徹底的に作品を読む面白さ

小説を読むための、そして小説を書くための小説集 読み方・書き方実習講義
著 者:桒原 丈和
出版社:ひつじ書房
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 創作の実作を手掛けない者が、いわゆるクリエイティヴ・ライティング、小説の書き方を教えることにはいささか困難が伴う。自分の経験から演繹した技法や難所の切り抜け方や、(先輩)作家としてのちょっとした工夫のようなものを伝授できないからだ。逆にたとえばスティーブン・キングやウンベルト・エーコなどベストセラー作家によるメソッドの開陳に、小説家志望者が興味を持つのはよく理解できる。それがハウツーからは程遠いものだとしても。

本書は、実作者でなく、日本文学研究者による小説を書くための指南書である。大学の講義で長年培われた創作技法のエッセンスを凝縮したものであるらしい。ただタイトルからもわかるように、書くためのものである前に、小説を読むためのヒントが書かれる点に特徴がある。著者は、作家後藤明生の「なぜ小説を書くか。それは読んだからだ」という言葉をひいて、さらにこう言う。〈既にあるものを読むことを通して別のものに作り直す、それが創作なのではないか〉。

とはいえ、書くためには小説をよく読め、という提唱自体はそう珍しいものではないだろう。本書が創作指南書としておもしろいのは、すでにある小説の表層的なストーリーやキャラクター設定の安易な模倣ではなく(これでは剽窃か、たんなる二次利用に陥る場合がある)、作品の屋台骨となるコアな構造や読者に情報を差し出す手順のようなものを理解し、それをリサイクルすべしと提案する点である。そのためには徹底的に作品を読まなければ/読めなければならない。その実践の方法が、具体的に丁寧に展開されていく。

まず、江戸川乱歩の「二銭銅貨」の全文が引用される。乱歩のデビュー作でもあるこの作品が、「私」による一人称の語りであること、探偵小説としての「お約束」を裏切る構造を持つことを解き明かしたうえで、〈小説を読み、論じる立場に立つと、どのように読者に情報が与えられているか、どのような情報が与えられ、同時にどのような情報が与えられていないか、を考えるのが重要だということになります〉という。そしてさらに紙幅を割いて、乱歩が作品の元ネタとしたエドガー・アラン・ポーの「黄金虫」の全文を掲載。じっくり比較し、「二銭銅貨」は「黄金虫」を批評的に書きかえた作品と結論づけるのだ(その際、作者たる乱歩が「黄金虫」を批評したのではなく、あくまで作品本位、「二銭銅貨」が「黄金虫」に批評的であると厳密に定義するあたりに、この著者のフェアネスがある)。

では、先行作品を批評的に書きかえるとの行為を、自分でもやってみるにはどうすればいいのか。著者は、〈空所〉に注目せよ、という。空所とは、作者によって意図的に書かれなかった情報、読者がさいごまで読み進めるための推進力となる「謎」のことであり、この空所をあえて(箇条書きで)書き出し、その情報を盛り込んだシークエンスを実作してみて、原作と比較せよというのだ。〈空所〉には、原作を読んで不満に感じた部分(もう少し主人公の心理が描かれていれば、など)も含まれる。その情報を自分でコントロールしながら書きかえれば、自作を創出する第一歩となり、あるいは原作のより深い理解にもつながるというわけだ。

つまるところ本書は、文学研究を、創作の体験を通してより緻密に、または新しい観点からアプローチするための実践の書ともなる。読む人にも書く人にも、そして教える人にとっても有益なるヒントにみちている。
この記事の中でご紹介した本
小説を読むための、そして小説を書くための小説集 読み方・書き方実習講義/ひつじ書房
小説を読むための、そして小説を書くための小説集 読み方・書き方実習講義
著 者:桒原 丈和
出版社:ひつじ書房
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