7袋のポテトチップス 食べるを語る、胃袋の戦後史 書評|湯澤 規子(晶文社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月6日 / 新聞掲載日:2019年7月5日(第3296号)

7袋のポテトチップス 食べるを語る、胃袋の戦後史 書評
食物語―食の履歴に反映される時代
人びとの暮らしと日本の食の風景が接合してつむがれる

7袋のポテトチップス 食べるを語る、胃袋の戦後史
著 者:湯澤 規子
出版社:晶文社
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 食べてきたものの思い出を聞いたり、食べることについて話したりしたことは誰でもあるだろう。語られる食の履歴にはその人の生きてきた時代が反映されている。こうした食物語の積み重なりとして、日本の食の歴史を描くのが本書である。

歴史地理学者である著者の前作『胃袋の近代 食と人びとの日常史』(名古屋大学出版会)が産業化を推進した明治から昭和初期の時代を扱ったのに対し、本書は続編として戦後から現代までの「胃袋」がとらえられる。本書は7章からなり、各章ごとに食のさまざまな側面が描かれていくが、通底しているのは個人の経験・感覚を介して社会を見ようとする姿勢だ。

まず序章で多様な食の履歴が積み重なる地層からみえる変わるものと変わらないものは何か、その背後にはどのような価値観の転換が潜んでいるのか、という課題設定がなされる。つづく第1章では戦後の食の変貌をみる前段階として、近世以降の日本の食の通史が概観されたうえで、著者の祖母・母をはじめとした著者につらなる人びとが登場する。本書は大きく異なる彼女たちの食物語をとおして時代変化が語られるのだが、第2章では祖母の残した料理帳から戦時下の飢えが、第3章では父の好物のお菓子から復興に向かう世相が、第4章では著者と付き合いのある山形の農家の食の履歴から高度経済成長期の農業と農村の変化が、第5章では母による外食や調理家電の経験から大量生産・大量消費の到来が、第6章・第7では著者のかかわっている生協や子ども食堂の活動から消費者個々人に閉じていく食の個化が……というように、人びとの暮らしと日本の食の風景が接合してつむがれていく。終章で、タイトルにあるポテトチップスをめぐる子ども世代のエピソードから、個から孤へと変わりつつある現代に、共に在ることの希望をいかに見出すことができるのかが考察されている。

帝国ホテル総料理長・村上信夫、流通革命ダイエーの創業者・中内㓛など日本の食に大きな痕跡を残した有名人たち、「アンパンマン」のやなせたかし、「火垂るの墓」の野坂昭如。彼らの語る飢えと貧困の経験は大多数の人びとの共通体験であり、戦後の食は、胃袋と舌を満たす飽食が目指された。しかしSNSでグルメ情報をやりとりして頭と心を満たそうとする現在は崩食が叫ばれている。こうした伝記と、「国民栄養調査」「食糧需給表」「世界農林業センサス」など各種数量データによる大きな動向とともに(地理学者らしく地図も活用!)、家族の歴史が語られる。祖母・母親・著者がたどってきた食物語がいい味を出している。ひとりひとりの食をめぐる状況や経験はそれ自体興味深い挿話だが、丹念に集められた資料の丁寧な読解と合わせられることで、物語の背景にある社会の変化と継続についての説得力ある分析にまで昇華されている。

また本書は、食に関する著名な文献やトピックも網羅しており、食や胃袋に関する研究の広がりを紹介するガイドにもなっている。そして史料とともに、著者の選んだ童話、小説、ノンフィクション、詩、絵画、音楽など多彩な資料、食物語が織り交ぜられて作られており、とおして読むと本書がなによりも著者自身の食の履歴書であることがわかる。そして、この物語は最後に21世紀を生きる世代へ問いかける、あなたたちはどう食べ生きるのかと。
この記事の中でご紹介した本
7袋のポテトチップス 食べるを語る、胃袋の戦後史/晶文社
7袋のポテトチップス 食べるを語る、胃袋の戦後史
著 者:湯澤 規子
出版社:晶文社
以下のオンライン書店でご購入できます
「7袋のポテトチップス 食べるを語る、胃袋の戦後史」出版社のホームページはこちら
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