夢があふれる社会に希望はあるか 書評|児美川 孝一郎( ベストセラーズ)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年7月6日 / 新聞掲載日:2019年7月5日(第3296号)

児美川孝一郎著『夢があふれる社会に希望はあるか』

夢があふれる社会に希望はあるか
著 者:児美川 孝一郎
出版社: ベストセラーズ
このエントリーをはてなブックマークに追加
 本書は、夢を持つことを強制する無責任な日本社会において、周囲の理想論に惑わされずに人生設計する方法を、キャリア教育の専門家である著者が提言する一冊である。著者は、人を前向きにさせる破壊的な威力を持つ一方で、時には人生を狂わせるようなやっかいさを持つ両義的な「夢」を「怪物くん」と形容して、「夢があふれる社会」の罪過を分析している。中高生でも読みやすい平易な言葉で紡がれた本書の知見は、キャリア教育研究に大きな貢献を果たしている。

本書は、主に四つの章から構成されている。第一章では、夢を実現して生活している人の割合を調査データに基づいて考察し、「夢」は固定的なものではなく可変的なものであることが説かれている。第二章では、日本社会が子どもや若者に夢を持つことを強制する社会に変容した起源を特にキャリア教育の推進に求めて、その構造的欠陥を鋭く指摘している。第三章では、「幸せになりたい」や「人の役に立ちたい」などの漠然としたイメージを具体的な目標に変換するためには、職業世界の現実を知り、自分の興味・関心を掘り下げ、「夢」の捉え方を広げる必要があることが述べられている。第四章では、「夢が見つからない時」、「夢をめざしている時」、「夢が実現しそうにない時」の三つの状況に応じて、夢とどのように向き合うべきかが提案されている。

本書の特徴は、従来のキャリア教育研究とは異なる視座を提供する点にある。これまでも二〇〇〇年代に推進されて以降、キャリア教育の構造的欠陥はたびたび論じられてきた。キャリア教育は、若者に夢を追求させておきながら、それを実現する手段を具体的に与えてこなかったのである。そうした課題の解決にあたっては、キャリア教育のあるべき姿という論点が前景化するのが一般的であった。他方、本書は、いかに夢を持つことを無条件に称賛される風潮に感化されず、人生設計をできるかという個人の生き方に焦点が当てられており、そこに大きな意義がある。

しかし、本書は必ずしも読者層に中高生や若者のみを想定しているわけではない。たとえば、「子どもに将来の「夢」を言わせて、周囲の大人たちは、ただ笑顔でニコニコしているだけという風景は、その子がちびっ子の時だけにしてほしい」(一一一頁)は、子どもの進路に対する家庭環境や学校環境の影響力が大きいことを示す鋭い着眼である。子どもに適切な働きかけをするためには、大人たちもまた「夢」の正体を把握する必要があると述べるのだ。子どもの進路選択に対する親や高校教師の関わりという専門学校進学研究などで看過されがちな課題に興味深い示唆を与えている。

本書は、キャリア教育についての専門的な記述を望む読者にとっては、やや噛みごたえの足りない入門的な内容かもしれない。しかし、いずれにしても本書は、今後の研究に継承されるべき要素を多分に含んでおり、教育社会学をはじめ多くの研究分野において、広く参照されるべき一冊である。
この記事の中でご紹介した本
夢があふれる社会に希望はあるか/ ベストセラーズ
夢があふれる社会に希望はあるか
著 者:児美川 孝一郎
出版社: ベストセラーズ
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
【書評キャンパス】大学生がススメる本のその他の記事
【書評キャンパス】大学生がススメる本をもっと見る >
学問・人文 > 社会学関連記事
社会学の関連記事をもっと見る >