東欧東欧からのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかでからのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかで 書評|川喜田 敦子(白水社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月13日 / 新聞掲載日:2019年7月12日(第3297号)

東欧東欧からのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかでからのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかで 書評
「被追放民」の「統合」過程を多角的に分析
背後に潜む国民国家イデオロギー

東欧東欧からのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかでからのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかで
著 者:川喜田 敦子
出版社:白水社
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人はしばしば移動する。気候変動や生業の変化とともに新たな土地を求めて移住することもあれば、戦火を逃れてやむなく生地を追われることもあるだろう。本書の主題をなす「被追放民」もまた、一九四五年前後の時期に東欧諸地域から大規模なスケールで移動した(あるいはさせられた)ドイツ系住民の一群を指す。異なる来歴を持つ一二〇〇万人以上の人びとが一様に「ドイツ人」として規定され、敗戦後のドイツに定住した。そのうち東ドイツが四一〇万人を、西ドイツが八一〇万人を受け入れたというから、当時のドイツ社会へのインパクトは相当なものだったに違いない。それにしてもなぜそんなに多くの「ドイツ人」が、いつどこから東欧諸地域にやってきて、一体どんな論理と歴史的経緯によってその土地を追われることになったのか。本書はまずこの点を「通時性」と「共時性」という二つの分析視角から整理し、一口に東欧の「ドイツ人」といっても、決して同質的な人びとから構成されていたわけではなかったことを明らかにする。

しかしながら、東欧からの「ドイツ人」の「追放」という現象は、それだけで完結する出来事では決してない。当然のことながら、過酷な移動を生き延びた彼ら・彼女らには「その後」の生活があったからだ。本書が全体の七割近い紙幅を割いて描こうとするのも、この「追放」の「後」の歴史にほかならない。そこで問題とされるのは移住先の社会――ここではとくに「西ドイツ」――への「統合」の過程である。これは、いわば「追放」という歴史的現象のもう一つの側面と捉えられるべきものであろう。その意味で、書題にこそ表れないものの、本書の力点が「被追放民」の「追放」の側面にではなく、(その結果としての)「西ドイツ」社会への「統合」の過程に置かれていることも首肯できる。

さて、ではその「統合」とはいかにして進んでいったのか。どういう状態になれば「統合」されたものとみなされ得るのか。東ドイツでは共産主義の論理のもと東部国境の問題を可視化する存在であった「移住者」の問題は早い段階で「解消」されたものと考えられ、やがて「タブー化」されたという。一方、西ドイツでは、「被追放民」の定住化は包括的に進んだようだ。そのプロセスを著者は、国籍取得をはじめとする法制度上の政策や労働市場への編入といった社会経済的な領域、さらには結社を通した政治参加などの観点から多角的に検討し、統合のダイナミズムに迫っていく。そのなかで特に目を引くのは、ドイツ系のルーツを持つからといって、「被追放民」がすぐさま現地住民に受け入れられたわけではなかったという事実であろう。どんなに法的な同権化が推進され、労働力として社会に編入され得たとしても、「被追放民」は、しばしば定住先のローカルな領域で「他者」とみなされたり、文化的に異質な存在と捉えられたりしたようである。もとより、「被追放民」側においても、かつての「故郷」への帰還を求める声が根強くあったことは注目に値する。とくに出身地別に組織された同郷人会が「疑似的な故郷として機能」(一四九頁)したという指摘は興味深い。

「被追放民」の「統合」をめぐる検討は文化的な領域にも及ぶ。ドイツの歴史教育にも造詣の深い著者ならではの鋭い分析は、まさにこの文化の領域における検証においていかんなく発揮されているといってよかろう。とくに「追放」と「統合」をめぐる研究プロジェクトや、東方研究・教育にとって重要な「追放」と「統合」をめぐる評価の検証作業を通して、著者は、東部領回復要求と反共産主義というイデオロギーが学問的な観点からの記録を抑制した論理を抉り出す。そうしたイデオロギーは、評者なりに要約すれば、「被追放民」の「被害」の側面のみを強調する語りと表裏一体の関係にあるだけではなく、時には西ドイツの復興の成功神話にも結びつき、ひいては「ナチ犯罪と「追放」を相殺する見方」(二三九頁)へと接続するというのである。このように、歴史認識の問題にも踏み込んだ本書の功績は、けだし、「追放」後の「統合」が多くの矛盾をはらみながら展開したことを示そうとしただけでなく、「同質性を安定の基盤としようとする」(二七九頁)国民国家イデオロギーの陥穽を新たな視座から見事に描き出したところにあるといえよう。
この記事の中でご紹介した本
東欧東欧からのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかでからのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかで/白水社
東欧東欧からのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかでからのドイツ人の「追放」 二〇世紀の住民移動の歴史のなかで
著 者:川喜田 敦子
出版社:白水社
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