新しいチンパンジー学 わたしたちはいま「隣人」をどこまで知っているのか? 書評|クレイグ・スタンフォード(青土社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月13日 / 新聞掲載日:2019年7月12日(第3297号)

新しいチンパンジー学 わたしたちはいま「隣人」をどこまで知っているのか? 書評
本当の「チンパンジー」の姿
各地のチンパンジーの姿を描いたモノグラフ

新しいチンパンジー学 わたしたちはいま「隣人」をどこまで知っているのか?
著 者:クレイグ・スタンフォード
翻訳者:的場 知之
出版社:青土社
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 チンパンジーは、ヒトと遺伝子の九八%を共有する「進化の隣人」として、学術的な分野だけでなく、社会の様々な場面においてひきあいに出される存在だ。愚かだ、倫理的に劣っている、という意味で「チンパンジー以下(並)」といった表現が使われる一方で、チンパンジーの高い知性や豊かな感情表現が驚きをもって紹介されることも、めずらしくない。しかし「野生のチンパンジー」は、どのような生活をし、高い知性をどんなことに使っているのだろうか?

本書は、長期野外調査の研究成果をもとに、「野生のチンパンジーの本当の姿」を丁寧に紹介している。やや専門的な内容だが、地道な調査と最新の分析技術が解き明かす「チンパンジー」の多様な姿には驚かされる。また「野生」に徹底的にこだわり、実験室や動物園での研究成果やエピソードは極限まで抑えているのが、類書にはない特徴だろう。著者自身の調査地である東アフリカのゴンベに加えて、マハレやンゴゴ、西アフリカのタイやボッソウ、フォリンゴなど、半世紀ちかくにわたる長期調査の研究成果を取り上げている。それぞれの生息環境の違いと研究結果の相違点が、「食料」、「社会関係」、「セックスと繁殖」、「発達」、「戦争や暴力」、「狩猟」などのテーマに沿って解説されている。

各地のチンパンジー達の生き様の多様さには目をみはる。雌は三分の一以上の時間を単独で過ごすゴンベ。観察されている中では最大一四〇頭以上からなる群れを作るンゴゴ。雌が雄とほとんど変わらない頻度で集団行動するタイ。疎林と乾燥草原が広がるフォンゴリでは、水を嫌うと言われているチンパンジーが、暑さを避ける為に水たまりに半身を浸し、洞窟で眠る。複数の石器を組み合わせてナッツを割るボッソウ。

著者の専門が狩猟行動なので、狩猟に関する章が最も厚みがあり、読みやすい。様々な方法で自分より小さな動物(小型霊長類が多い)を捕まえるが、「計画性」には乏しいというチンパンジーの狩猟の特徴が明示されている。一方でチンパンジーが「なぜ狩猟をするのか」、という根本的な問いには、未だに明確な答えが出ていない。主食である果物が少ない時期に狩猟の頻度が高いとはいえず、カロリー計算から肉の重要性は示せない。最近では、ナトリウムや亜鉛などの微量栄養素の摂取が目的ではないか、という説が注目されているようだ。近年、話題になったフォンゴリでの「槍を使った狩り」は、実は獲物を突き刺す「槍」ではなく、樹洞に枝を突っ込んで小型のサル(ガラゴ)を叩きのめし、動けなくして引きずり出すのだ、といった詳細も説明されている。

十五年以上続いているチンパンジーの長期調査地は、東西アフリカで合計十二ヶ所だが、野生チンパンジーを研究している現役の研究者と学生は世界で一〇〇人に満たない、というのには驚いた。京都大学の長期調査地であるマハレを中心に、日本人研究者の研究成果もテーマに沿って紹介されており、著者がチンパンジー研究の隅々にまで目を配っていることがうかがえる。

野生チンパンジーの姿に肉薄した訳書といえば、著名な霊長類研究者であり、著者スタンフォードの恩師でもあるジェーン・グドール博士の大著『野生チンパンジーの世界』(ミネルヴァ書房)だろう。『野生チンパンジーの世界』がゴンベという「一つの村での二六年の物語」だとするなら、本書は、最新の分析技術を駆使して、「各地のチンパンジーの姿を描いたモノグラフ」ともいえる。

半世紀にわたる長期調査によって、私達はチンパンジーがどんな生き物か理解できたのだろうか? 答えは否、まだあと何十年もかかるだろう。しかし「チンパンジーが野生から姿を消すまでに、それだけの時間が残されているかどうかは、誰もわからない」。だからこそ、今わかっていることを多くの人に伝えたい、二二世紀もチンパンジーが生き残って欲しい、という著者の切なる願いがこめられた一冊でもある。
この記事の中でご紹介した本
新しいチンパンジー学 わたしたちはいま「隣人」をどこまで知っているのか?/青土社
新しいチンパンジー学 わたしたちはいま「隣人」をどこまで知っているのか?
著 者:クレイグ・スタンフォード
翻訳者:的場 知之
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
「新しいチンパンジー学 わたしたちはいま「隣人」をどこまで知っているのか?」出版社のホームページはこちら
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