対談=山崎洋子×井上理津子 光と闇、事実を描き人間を描く 『女たちのアンダーグラウンド』(亜紀書房)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2019年7月12日 / 新聞掲載日:2019年7月12日(第3297号)

対談=山崎洋子×井上理津子
光と闇、事実を描き人間を描く
『女たちのアンダーグラウンド』(亜紀書房)刊行を機に

このエントリーをはてなブックマークに追加
山崎洋子氏が『女たちのアンダーグラウンド 戦後横浜の光と闇』(亜紀書房)を上梓した。本書は二〇年前に毎日新聞社から刊行された『天使はブルースを歌yaウトサイド・ストーリー』(亜紀書房より復刊)に続く作品である。刊行を機に、 『さいごの色街 飛田』や『葬送の仕事師たち』などのルポルタージュを手掛ける井上理津子氏との対談をお願いした。戦後、そして現代の社会の裏面と、人間というものが見えてくる、真摯で赤裸々な対話となった。 ※戦後という時代を語るという趣旨から、本対談では本書に準じ「混血児」という表現を用いています。     (編集部)
第1回
期せずして見ることになった横浜の暗部


井上  
 江戸川乱歩賞を受賞した山崎さんのデビュー作『花園の迷宮』は、横浜の遊郭を舞台にしていますね。ストーリーはもちろん、遊郭内部について非常に緻密に描かれていて、遅ればせながら夢中になって読みました。

そして『天使はブルースを歌う』を出されたのが、それから十数年後の一九九九年。今度はノンフィクションで、現実のディープな横浜を描いていくことになる。さらに二〇年の時を経て刊行されたのが『女たちのアンダーグラウンド』。二冊ともに、取材の経過や、山崎さん自身の心境、惑いやトラブルについても書かれていて、読みながら、私も山崎さんと一緒に、閉ざされていた横浜のベールをはがしていくようでした。引き込まれました。
山崎  
 私にとって『天使はブルースを歌う』が、最初に書いたノンフィクションです。それまで私が読んできたノンフィクションは、事件もののルポルタージュが多かったのですが、私には記者のような客観的な叙述は無理だと。どうしたものかと逡巡して、最終的に自分を作中に出すかたちで書いたのです。
井上  
 『天使はブルースを歌う』では、GSの人気グループだったザ・ゴールデン・カップスのその後を追っていたのが、取材が進むうちに、期せずして横浜の暗部を見ることになりました。

メンバーの一人、エディ藩さんに、チャリティでCDを作ることになったから、山崎さん作詞してよ、と頼まれたことがきっかけでしたね。横浜山手ライオンズクラブの三〇周年記念で根岸外国人墓地に慰霊碑を建てることになり、CDを製作して売り上げを建設費用にあてようと。その慰霊碑が、アメリカ人男性と日本人女性との間に生まれた約八〇〇体の嬰児のためのものだった――。

山手ライオンズクラブの方は、根岸外国人墓地に嬰児の遺体が埋葬されているという事実を、なぜ知っていたんですか。
山崎  
 私は当時、根岸外国人墓地の存在すら知らなかったのですが、元町や山手など近隣の人たちの間ではよく知られたことだったようです。八〇〇体という具体的な数字は、現在郷土史家として活躍されている田村泰治さんが、根岸外国人墓地の近所の横浜市立仲尾台中学に勤めていらした折に、地道に検証した結果です。草の生い茂った荒れた墓地をきれいにして、墓標と、わずかばかり残された台帳や古い文書とを、一つ一つ照らし合わせていったのです。
井上  
 多くの人にとって忘れられた墓地だったわけですよね。この事実を知ったとき、どう思われましたか。
山崎  
 埋葬されていた嬰児たちのほとんどが、戦後二年目に生まれた私と同年代だったんです。なんだかんだ苦労はしてもここまで生きてきたものと、人知れず葬られた子たち、とても大きな差です。でもあの時代の混沌の中で、それはもしかしたら、私の身に起こったことだったかもしれない。さらに、死なせてしまった子を人知れず墓地に置いていった母親の気持ちを考えると、とても無視できなかったですね。その一方で、エディ藩さんが同い年だったことにも縁を感じずにはいられなかった。それでザ・ゴールデン・カップスを中心に、長じてハーフブームに乗ってもてはやされたハーフたちと、名もないまま葬られた孤児たちの事情を追うかたちになったのです。
井上  
 墓地埋葬法が制定されて、埋葬に市町村長の許可証が必要になるのが一九四八年です。それ以前の、管理など行き届かない時期の出来事ですよね。根岸は公設墓地ですが、戦後の混乱期には墓地以外の場所にも、どうしようもなくて埋めてしまったということがあってもおかしくなかったでしょう。出生届だって出されていない子がたくさんいた。
山崎  
 そうですね。少なくとも根岸外国人墓地では、田村さんの尽力で嬰児が約八〇〇体埋められていたことが分かった、というだけでね。

いまなら遺体が一つ見つかっても大騒動ですが、餓死もはやり病も殺人も、ゴロゴロあった時代です。しかも混血児と分かる遺体ですから、GHQの手前、日本の警察は関わりたくない。

はじめは山手外国人墓地に嬰児の遺体がこっそりと置いていかれたのです。とにかく埋葬して欲しいという気持ちが、親にはあったのでしょう。なぜ外国人墓地だったかといえば、ひと目で外国人の血が入っていると分かる嬰児たちだったから。山手には埋葬のスペースがなかったから、空いていてしかも米軍に接収されている根岸の外国人墓地が、遺体を暗黙で受け入れたのだと思うんです。
井上  
 そして山崎さんがそのことを朝日新聞に書いたために、横浜市役所が怒ってしまった。さらに二〇年経って、再び横浜市役所から山崎さんが取材拒否を受けたことが、『女たちのアンダーグラウンド』が書かれたきっかけになりました。
山崎  
 そうなんです。今回神奈川新聞の記者の取材につき合う中で、横浜市役所に赴こうとして、発覚したのですが。

田村先生の論文は精密な研究でしたが、私家版でした。でも朝日や日経新聞の記事は、かなりの数の人が目にする。それで逆鱗に触れて、ブラックリスト入り(笑)。
井上  
 『天使はブルースを歌う』の取材でようやく市役所の人と会うことになったときにも、随分な言い方でしたよね。
山崎  
 嬰児たちに関する書類はないから、行政として混血児が埋葬されているとは認められないというんですね。世の中には文書がなくても、語り伝えられる郷土史もありますが、まぁその言い分は分からないでもない。ただ「そんな歴史を掘り起こして、誰が喜ぶと思います?」と。喜ぶとか喜ばない、という問題ではないんですけれどね。
2 3 4 5 6 7
この記事の中でご紹介した本
女たちのアンダーグラウンド/亜紀書房
女たちのアンダーグラウンド
著 者:山崎 洋子
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
天使はブルースを歌う――横浜アウトサイド・ストーリー/亜紀書房
天使はブルースを歌う――横浜アウトサイド・ストーリー
著 者:山崎 洋子
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「天使はブルースを歌う――横浜アウトサイド・ストーリー」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
山崎 洋子 氏の関連記事
井上 理津子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >