公衆衛生の論点 その記録 書評|多田羅 浩三(左右社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年7月20日 / 新聞掲載日:2019年7月19日(第3298号)

公衆衛生の論点 その記録 書評
医療・公衆衛生の同時代史
医学生の頃から現在までに執筆された文章を収める

公衆衛生の論点 その記録
著 者:多田羅 浩三
出版社:左右社
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本書には、著者が大阪大学の医学生だった一九六〇年から、日本公衆衛生協会会長の任にある現在までに執筆された、いろいろな文章が収められている。

まずは青年時代の旅日誌。一九六三年、東南アジア・南アジアを巡り、保健・医療施設の視察、意見交換に臨んだ阪大医学踏査隊の一員としての約四か月の旅。そしてその帰国から二か月後に出発し、北海道から九州まで、各地の学生寮を頼り、医学生たちとの意見交換に及んだ一人旅。著者の思想やその後の活動に大きな影響に与えたと思われる、これら二つの旅の記録が収められている。

日本の医療は現状のままでよいのか。青年時代の著者の問題意識は、とくに若手医師の労働条件に尖鋭的に向けられた。「インターン闘争小史」と題された一九六九年の文章を読むと、戦後導入された日本のインターン制が、研修というよりタダ働きの制度となり、それが日本の低医療費構造にも繋がっていると指摘して、その廃止を要求した若手医師・医学生たちの運動の息吹が伝わってくる。

阪大医学部公衆衛生学教室に入った著者は、大阪府成人病センターなど、行政の保健活動とも連携しながら研究活動を続けた。一九八六年、日本は男女とも平均寿命が世界一となり、公衆衛生の中心的関心が、かつての感染症から成人病・生活習慣病へ、さらに老後の健康不安へとシフトするなかで、どのような対策がとられ、どのような課題が残されているのか。「先人」たちに学び、これからの「健康づくり」のあり方を考える文章が、本書後半の主要部分をしめている。

その際言及されている概念に「集団医学」がある。阪大教授としての著者の先任者・関悌四郎編『集団医学の発足』(一九七〇年)で登場した用語だが、もとは英語のcollective medicineである。臨床医学は個々の患者を対象とするが、その個人が所属する地域や職場などの集団に共通する生活習慣や生活環境を考慮することで、さらなる疾病予防・健康増進につながる。そこで、自治体などが担う予防活動と、臨床医が担う治療との連携が重要な意味をもつというわけである。この例として、著者はとくに特定健診・保健指導の意義を強調している。

国民医療サービス(NHS)を擁する英国における「集団医学」の歩みが随所で参照されているが、それを理想化しているわけではなく、著者自身の明確な問題意識のもと、その欠点も含めて参照軸としてきたことがうかがわれる。

総じて本書は、医療・公衆衛生の同時代史として読める。良き医療への同志ながら、意見の相違もあった阪大医学生時代の著者の同期生、徳田虎雄元代議士(徳洲会創始者)の活動についての評伝(二〇〇七年)などは、とくに印象深い同時代史的証言でもある。その時々の著者個人の思いを反映した各文から成るだけに、体系的な公衆衛生史論ではないが、だからこそ興味深く、医療・保健のあり方について読者の思考に働きかける内容となっている。
この記事の中でご紹介した本
公衆衛生の論点 その記録 /左右社
公衆衛生の論点 その記録
著 者:多田羅 浩三
出版社:左右社
以下のオンライン書店でご購入できます
「公衆衛生の論点 その記録 」出版社のホームページはこちら
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