ジャクソン・ポロック研究 その作品における形象と装飾性 書評|筧 菜奈子(月曜社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月20日 / 新聞掲載日:2019年7月19日(第3298号)

ジャクソン・ポロック研究 その作品における形象と装飾性 書評
ジャクソン・ポロック研究
その作品における形象と装飾性

ジャクソン・ポロック研究 その作品における形象と装飾性
著 者:筧 菜奈子
出版社:月曜社
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私事ではあるが、一九八〇年代の前半、ある展覧会(本書のなかでも扱われているパターン・アンド・デコレーションの作家を含むグループ展)の出品交渉でニューヨークを訪れたとき、近代美術館に展示されていたポロックをはじめて見た。その時の印象は今でも覚えている。ポーリングによる大画面は単純にただただ美しく、また軽やかであった。それまで無意識の抑圧されたさまざまな情念をおどろおどろしくくねくねした線描で表出していると勝手に思い込んでいたのだが、それとは正反対の印象で、以来私のポロック観は変わってしまった。ポロックにはそんな個人的思い出がある。

というわけで本書の副題にある装飾性という言葉に惹かれて、どのようなことが論じられているのか読んでみたいと思った次第である。以下、本書の二つのテーマ「形象」と「装飾性」について感想を述べてみる。

前半の形象については、興味深い指摘がなされている。ポロックの作品展開は大雑把に言えば、初期のシュルレアリズムや神話に彩られた半具象的な作品、中期はポロックの絶頂期、ポーリングによる抽象的なオール・オーヴァーな大画面、そして晩年はモノクロによる具象回帰、そして各時代の様式には断絶が見られるというのが一般的に言われてきたことのように思う。しかし著者はその作品展開には一貫性があると主張する。初期の作品に並列的に画面上に顕在していたカリグラフィーや記号のようなモチーフは、ポーリングによって隠蔽されるが、画面の初層にはそれらが確かに描かれており、晩年のブラック・ペインティングにはそれらが画面上に復活していると捉え、その視点から、ポロックの各時代の様式的展開には核となる形象が一貫して存在すると論じている。隠蔽されたはずのモチーフがなぜそこにあると言えるのか。これには写真編集アプリであるフォトショップを利用して記録に残された写真や映像を加工すれば、作品の描きはじめにはどのようなモチーフがあったのかわかるのだという。幸いなことに、ポロックに関してはハンス・ナムートが膨大な映像資料を残しているので、そういった分析が可能になった。この指摘はポロックの様式展開を考える上で、重要な問題提起のように思う。

装飾性の方はこれもまた興味深かった。モダニズムの文脈では装飾性は否定的概念として理解されてきたが、著者はピカソ、マティスに見られる装飾性の伝統をポロックが引き継ぎ、次世代のフランク・ステラやパターン・アンド・デコレーションのアーティストたちによって絵画性の主要な部分を担う肯定的要素として理解されてきたと論じ、装飾性を再評価する。これについては琳派という我が国の伝統に鍛えられた眼にとっては何の異論もないところであろう。

総じて本書はよく整理されていて、自分がどこにいるのか、何を課題としているのかなど、常に意識しながら書かれた良質の研究書と言える。

最後に気になった点を少しあげておこう。著者はポロックのキーワードである「ポアリング」と「ドリッピング」という二つの用語を恣意的に使い分け、これらを併記して使用しているところも見られるが、あたかも別種の技法のように聞こえるのはいかがなものかと思う。もう一つ、ポロックのインタビューの引用で「彼ら(アメリカ・インディアン)の用いる色彩は本質的に西洋的であり、……」と訳されているが、西洋的と訳されたWesternは、ここではアメリカ西部の意味である。引用文の翻訳については、全般的にとても丁寧で、わかりやすくする工夫も随所に見られて好感が持てるものであることも付け加えておく。
この記事の中でご紹介した本
ジャクソン・ポロック研究 その作品における形象と装飾性/月曜社
ジャクソン・ポロック研究 その作品における形象と装飾性
著 者:筧 菜奈子
出版社:月曜社
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「ジャクソン・ポロック研究 その作品における形象と装飾性」出版社のホームページはこちら
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