詩集 夢通分娩 書評|鎌田 東二(土曜美術社出版販売 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月20日 / 新聞掲載日:2019年7月19日(第3298号)

詩集 夢通分娩 書評
「夢」を通じて産まれ出る何か
あたらしい・なつかしい神話世界に開かれていく

詩集 夢通分娩
著 者:鎌田 東二
出版社:土曜美術社出版販売
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 鎌田東二の第二詩集は『夢通分娩』と題されている。第一詩集『常世の時軸』についても本紙で書かせていただいたが、時置かずして刊行の第二詩集についても拙文を記したい。

書名は、今回も広義の語呂合わせによる造語だが、鎌田氏は学術的著作でも語呂合わせを方法的に用いることが少なくない。言葉の規矩をすり抜ける意外な効果によって、新たな思念の空間を拓こうとする技法である。言語の最も自由な、本来的でもあろう発現形態たる詩歌では、氏はこの手法をいっそう自由に、多彩に繰り出して、思わぬ言葉の連なりはしばしば脱臼感をともなうユーモアも産む。若き日、『マルドロールの歌』に衝撃を受け愛読したという氏の言葉を思い出した。

個々の作品中では言葉は奔放なまでに動き回るが、しかし詩集全体は一つの大きなテーマのもとに整然と構成された連作で、たんなる作品集ではない。前半の「夢通分娩Ⅰ」に、「1 産母」以下番号を付された十編、後半の「同 Ⅱ」に「11 永遠」以下十編が並び、その中間に「夢底開闢」と総題される、夢をそのまま詩にしたような四編(「壹 フラフープ」、「貳 夢幻底」、「參 亀嶋の翁」、「肆 夢海童子」)が置かれる。「夢十夜」ならぬ「夢四夜」だろうか。そしてこれら本編を挟んで、詩集冒頭に、「夢通分娩」の世界全体を開披する「天令」、末尾にそのさらなる彼方を予感させる「ピアニッシモは震えた」が据えられる。

詩集のテーマ・詩想は、「夢」の世界に通じることで=夢の世界を通じて、産まれ出る(「夢通分娩」する)はずの何かの期待と探索、といっておきたい。本編冒頭の「産母」が「母さん ぼくがあなたを産んだ日/あなたはぼくを捨てた」と始まり、詩集掉尾の作品は「ピアニッシモは顫えて瞳を大きく見開いたままゆっくりと身を投げた」と閉じられるのだから、この「夢通」世界は、「悲しみの彼方、母への、/捜り打つ夜半の最弱音」が響くあの「麗はしい距離」(吉田一穂)に呼応するのだろう。けれど、古事記の世界を自らの神話としている東二の場合、スサノヲの母恋いの行方も連想される。「分娩」の語が示すように、そこでの母恋いは何かが産まれ出る回路でもある。第一詩集は破滅や暴虐の息苦しいイメージに満ちていたけれど、この「夢通」世界は悪夢ではない。用いられる言葉の連なりやしらべも、やわらかい和語・ひらかなが印象的で、ひろい意味での女性的なものにつつまれたやすらぎと無邪気さがただよう。産まれ・産むことで切り離され・切り離した「母」と、夢に通い・夢で通じながら、あたらしい・なつかしい神話世界に開かれていくようだ。
この記事の中でご紹介した本
詩集 夢通分娩/土曜美術社出版販売
詩集 夢通分娩
著 者:鎌田 東二
出版社:土曜美術社出版販売
以下のオンライン書店でご購入できます
「詩集 夢通分娩」出版社のホームページはこちら
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