スペシャリストたちの挑戦 光プロジェクトの夢 書評|川嶋 康男(三冬社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月20日 / 新聞掲載日:2019年7月19日(第3298号)

スペシャリストたちの挑戦 光プロジェクトの夢 書評
地方創生、光専門技術大学とベンチャー企業創設の物語

スペシャリストたちの挑戦 光プロジェクトの夢
著 者:川嶋 康男
出版社:三冬社
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本書は一九九八年に開学した千歳科学技術大学と、その設立に携わった人々の物語である。この大学は設立当初から、光技術、それも光学(オプティクス)ではなく、光の量子的な性質に着目するフォトニクスに特化した専門性の高い大学を志向していた。人口九万人程度と決して大きな自治体ではない北海道千歳市に、エッジの立ったコンセプトの大学が、どのようにしてできたのか。

始まりはバブル期の「道央テクノポリス」構想だった。当時の新千歳空港周辺には、夏の間だけ牛を預かって放牧する牧野が広がるばかり。この土地を開発したい。ゴルフ場やサーキットにする計画もあったが、千歳市の地域政策課長であった坂本捷男は、テクノポリスの要件となる「高度技術の集積」のコアとして大学を設置したいと考えた。

当初は東京の私立大学のキャンパスを誘致する予定だったが、バブルが弾けて立ち消えとなった。そこで、空港があることから、航空工学を軸にした大学を新しく作ることになった。

大学の新規設置となると、審査は厳しくなる。文部省(当時)の担当者は、新規性の高い先端科学技術の分野でなければ認可できないと言う。予定した学部学科は全部だめという厳しい意見の中で、ただ一点「光は面白いんだよなー」という声があった。航空工学部の下に置かれた物質「光」学科という文字に反応したのだ。

これだ、と確信した坂本は、千歳市に進出していた日立製作所にさっそく相談を持ちかけた。そこで出会ったのが日立製作所の今村陽一氏で、彼には過去に大学設置に関わる経験があった。

今村は、自らの大学時代の恩師であり、光技術の国際的権威である慶應義塾大学理工学部の佐々木敬介教授を坂本に紹介した。光の科学を専門に扱う教育研究機関を作りたいと考えていた佐々木は、初代学長として情熱をもって開学準備にあたった。

しかし、待ちに待った開学の直前、佐々木は入院し、余命三ヶ月の宣告を受ける。大黒柱を失った後、大学の方針はゆらぎ、ベンチャー精神も衰えてしまった。坂本は大学の理事を辞し、千歳科技大発のベンチャー企業第1号であるPSTI社の経営に注力した。

資金繰りに苦労しつつも、会社はどうにか続いた。創立から二十年たった今、経産省など政府主導の研究開発プロジェクト(国プロ)に依存する体質を脱し、自ら製品を販売して利益をあげられるようになった。千歳科技大は地元に根を下ろし、二〇一九年からは公立化されて新たなスタートを切った。

関係者の記録として書かれた色合いが強く、一般の読者に薦めるのはやや難しい感はある。創業時の華々しい話だけでなく、当初の意図とのギャップ、省庁との折衝などもつぶさに書かれているので、同様の案件に携わる方には参考になるかもしれない。あるいは、この時代の公共系プロジェクトが、どういった見通しのもとで、どういった形で推進されていたかという記録として有用かもしれない。
この記事の中でご紹介した本
スペシャリストたちの挑戦 光プロジェクトの夢/三冬社
スペシャリストたちの挑戦 光プロジェクトの夢
著 者:川嶋 康男
出版社:三冬社
以下のオンライン書店でご購入できます
「スペシャリストたちの挑戦 光プロジェクトの夢」出版社のホームページはこちら
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