対談=楊逸×安田峰俊 いつか…目覚める日~天安門事件から三十年~ 安田峰俊著『八九六四』『「天安門」三十年』を基軸に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年7月19日 / 新聞掲載日:2019年7月19日(第3298号)

対談=楊逸×安田峰俊
いつか…目覚める日~天安門事件から三十年~
安田峰俊著『八九六四』『「天安門」三十年』を基軸に

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 一九八九年六月四日に起きた天安門事件から今年、三十年を迎えた。隣国中国のこの大きな政治的事件について、私たちは何を知っているだろう? ルポライター・安田峰俊氏の『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA、第五〇回大宅壮一ノンフィクション賞、第五回城山三郎賞受賞)と『「天安門」三十年 中国はどうなる?』(育鵬社発行・扶桑社発売)のスピンオフとして、天安門事件をテーマにした小説『時が滲む朝』(文藝春秋)で、第一三九回芥川賞を受賞した作家・楊逸氏との対談をお願いした。    (編集部)
目 次

第1回
反体制運動ではなく愛国運動だった


楊 逸氏
楊逸 
 安田さんは『八九六四』で、六四天安門事件のことを、民主活動家に限らず、当時いろいろな立場にいた人びとに尋ねていますね。私が注目したのは、その中に中国に留学生として来ていた日本人の方が登場したことです。当時付き合っていた彼氏が、天安門事件を通して豹変したと語っていたのが興味深かった。その方の話は、私にはこれまで見えていなかったところだと思いました。天安門事件の語りの中に、外国人の視線があることが新鮮でした。
安田 
 知的で心優しかった恋人が、六月四日の鎮圧後、卑屈で露悪的な態度になったという話ですね。彼女はデモも何も起きなければよかった。中国社会も、自分自身も、失ったものが大きすぎると語っていました。

私はこの対談を前に、楊逸さんの『時が滲む朝』(文藝春秋)を読み返しました。芥川賞を受賞したのは二〇〇八年ですから、十一年前ですね。主人公の梁浩遠と友人謝志強の物語は、私が取材した人の一人といってもいいほどリアルで、紛れもなく天安門事件に関わった若者の人生そのものだと感じました。

特にリアリティを感じたのは、デモの最中に「義勇軍進行曲」や「共産党就是好」などを歌う描写があったり、日本に暮らし始めた浩遠が、民主活動家らと酒を飲んで語っている内容が「マルクスだって一生貧しいままだった」と、共産主義の範中のものだったりする部分です。日本のメディアでは、天安門のデモは民主化運動であったがゆえに、反体制的な運動であると説明されることが多い。でも私も当事者の話を聞く中で分かってきたことですが、かなり深く運動に関わった人でも、特に学生たちは、あの鎮圧を迎えるまで反体制の運動だと考えてはおらず、国を良くするための愛国運動だと思っていた。私はたくさんの人に話を聞き、それをノンフィクションとしてまとめたわけですが、同じことが十一年前に既に、楊逸さんによって書かれていたのだと感じました。
時が滲む朝(楊 逸)文藝春秋
時が滲む朝
楊 逸
文藝春秋
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楊逸 
 『時が滲む朝』は天安門事件二十年を前に、結論は出ないながら、私なりに事件を振り返り、繰り返し考えを巡らせて書いたものです。

小説を書いた当時、私の視野はとても狭くて、中国の政治について知っていたつもりでしたが、果たして本当に分かっていたのか。私の立場で知り得る情報は限られていて、考えても正しい答えがみつからない、そういう状態だったのだと、いまになって考えるようになりました。

天安門のデモの始まりは、単に汚職官僚に反対する、というような趣旨だったと思います。学生たちは社会の不平等や不正を訴えましたが、その先の改革は共産党政権に期待していたんです。

でも中国の抱える問題は、そんなに単純ではなかった。中国の政治体制自体を問う必要があった。そのことが見えるまでに時間がかかり、私もこの小説を書くまでは、なんとか政府を理解しようとしていました。

その日本人の方の話でも、学生リーダーだったウアルカイシや王丹に触れられていましたが、事件後、海外に亡命した民主活動家の行動や姿を見ていると、仮に天安門のデモがうまくいき、活動家たちが共産党政権を倒し、中国のリーダーになっていたらどうなっていたのか。もっと恐ろしい社会になっていたのではないか、とも感じるのです。中国で起こっているのは、悪循環以外の何ものでもありません。
安田 
 それについては、少なくない人が、同じようなことを語っていました。私が取材したのは天安門事件当時、二十代前半で、現在は五十歳前後の方がほとんどですが、楊逸さんと同じように、あの頃は若くて視野が狭かった、と語る人が多かったことも印象に残っています。

ところで楊逸さんは、天安門事件のときは、故郷におられたんですか。
楊逸 
 当時日本にいましたが、一時帰国して北京に行きました。
安田 
 どんな気持ちで、帰国されましたか。
楊逸 
 中国が変わると本気で信じていました。あれだけの人が街に出て、運動を行っていたわけですから。一部のメディア関係者、中央テレビのアナウンサーや、有名大学の教授なども、名前を出して運動を支持していました。いまは覆面の人が多いのですが、当時はみな実名を出して、全く無防備でしたね。
この記事の中でご紹介した本
八九六四 「天安門事件」は再び起きる/KADOKAWA
八九六四 「天安門事件」は再び起きる
著 者:安田 峰俊
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
「天安門」三十年 中国はどうなる?/扶桑社
「天安門」三十年 中国はどうなる?
著 者:安田 峰俊、石 平
出版社:扶桑社
以下のオンライン書店でご購入できます
「「天安門」三十年 中国はどうなる?」出版社のホームページはこちら
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