大口玲子『ひたかみ』(2005) 京YAり徒歩十分ゆうかり橋を渡つて降りて |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年7月30日 / 新聞掲載日:2019年7月26日(第3299号)

京YAり徒歩十分ゆうかり橋を渡つて降りて
大口玲子『ひたかみ』(2005)

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単なる道案内を五七五七七に乗せただけのような歌だが、このルートを歩いていったいどこに行こうとしているのか察することができた人は、東京の地理に非常に詳しいか、もしくは原子力問題に関心があるかだろう。歌集においてこの歌には、こんな詞書(解説文)が添えられている。「二〇〇四年一〇月二日、東京夢の島の第五福竜丸展示館見学」。そう、一九五四年にアメリカの水爆実験によって船員が被曝したマグロ漁船・第五福竜丸を展示している、東京都立第五福竜丸展示館である。

作者はこの当時宮城県に居住しており、第五福竜丸展示館を訪れた一週間後には、女川原子力発電所の見学に訪れている。原発から二〇キロ弱の圏内に住み、毎年五千円弱の原子力立地給付金が振り込まれるという生活であった。

原発圏内に住む不安を描いた長編連作「神のパズル」は、この七年後に改めて注目されることになる(その理由は言うまでもない)。そして、女川原発は誠実な仕事に守られていたことが明らかになった。何とも皮肉な結果である。

「新木場駅」という駅名から、夢の島が語られることはあっても、「第五福竜丸展示館」が語られるケースはこの先ますます減ってゆくのだろう。作者がそこを訪れたわずか二週間後、京葉線新木場駅はダイヤ改正によって通勤快速の停車駅となった。新木場駅の名はますます日常に溶け込んでゆき、そのかわりに忘れられてゆくものも、きっとある。(やまだ・わたる=歌人)
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