2019年上半期の収穫から Part2|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年7月31日 / 新聞掲載日:2019年7月26日(第3298号)

2019年上半期の収穫から Part2

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イラストレーション:もちづきみちよ
令和最初のアンケート特集、「2019年上半期の収穫」。
さまざまな分野の専門家、研究者、作家、書評家、書店の方などに、上半期、印象に残った三冊を挙げていた
だきました。夏休みに読みたい一冊、読み忘れていた一冊がきっと見つかります。 (編集部)


【2019上半期の収穫から 執筆者一覧】
阿部公彦(英米文学)/五十嵐太郎(建築史)/池田喬(哲学・倫理学)/石原千秋(日本近代文学)/岩本真一(衣服産業史)/植村八潮(出版学)/臼杵陽(中東地域研究)/大野公賀(中国文学)/小川さやか(文化人類学)/落合博(Readin’Writin’)/片岡大右(仏文学・社会思想史)/鎌田東二(宗教哲学)/木村玲欧(防災・減災学)/木本好信(日本古代政治史)/倉本さおり(ライター)/郷原佳以(仏文学)/齋藤純一(政治理論)/齋藤元紀(哲学・倫理学)/佐々木力(科学史・科学哲学)/渋谷謙次郎(ロシア法)/砂川秀樹(文化人類学)/関智英(中国近現代史)/先崎彰容(日本思想史)/立川孝一(フランス史)/
第1回
アメリカ文学   巽 孝之

目野由希『日本ペン倶楽部と戦争 戦前期日本ペン倶楽部の研究』(鼎書房)

F・スコット・フィッツジェラルド『美しく呪われた人たち』(上岡伸雄訳、作品社)

テリー・テンペスト・ウィリアムス『大地の時間 アメリカの国立公園、わが心の地形図』(伊藤詔子・岩政伸治・佐藤光重共訳、彩流社)

日本ペンクラブといえば国際的ネットワークを持つ文学者団体として広く知られるが、目野の単著は、それがいかなる外圧で一九三五年に誕生したのか、そしてその背景にはロンドン社交界を彩るクラブ文化やフリーメイソン、心霊主義や神智学がいかに関わっていたのか、島崎藤村初代会長が日系移民の多い南米を訪問していかなる論争を仕掛けたかなど驚くべき歴史を克明に炙り出す。

一九二〇年代ジャズ・エイジの寵児フィッツジェラルドは日本でも人気だが、実は全作品が訳されてきたわけではない。特にこの第二長編は、その分厚さと評価の低さで敬遠されてきたが、このたび流麗な訳文で実現した本邦初訳によって、名作『華麗なるギャツビー』の前日譚と後日譚を見出す読者も多いだろう。

ウィリアムズは北米ネイチャー・ライティングとエコ・フェミニズムを代表する文学者だが、本書では幼児期から庭のようにして散策してきた国立公園という文化の中に、どれだけの民族的葛藤や財閥の介入、大統領の歴史が刷り込まれているか、またいかに自然保護と観光利用の間の矛盾が問題となってきたかが洞察力豊かに綴られており、まさに目から鱗の落ちる思いであった。(たつみ・たかゆき=慶應義塾大学教授・アメリカ文学)

出版学   植村 八潮

フェルナンド・バエス『書物の破壊の世界史 シュメールの粘土板からデジタル時代まで』(八重樫克彦・他訳、紀伊國屋書店)。古今東西、なぜ書物は破壊されてきたのか。書物に記された記憶や民族の歴史を消し去ることで、敵対する文明を無きものにする愚行は終わることがない。

萩野正昭『これからの本の話をしよう』(晶文社)。電子出版の黎明期から今日まで、四半世紀に渡るフロンティアとしての道のりを振り返り、本の魅力について語る。「私」のためのメディアという原点を振り返る出版論。電子版がボイジャーから同時出版。

渋谷敦志『まなざしが出会う場所へ 越境する写真家として生きる』(新泉社)。自国の優位性を誇り、排外的な思想が世界的に強まっている。辺境の地で起こっている困難な状況をボーダーラインの向こう側のこととして見ないのではなく、私たちの問題として見据えていく。ボーダーを越えて歩むフォトジャーナリストからの強いメッセージの書。(うえむら・やしお=専修大学教授・出版学専攻)

中東地域研究   臼杵 陽

トルコのイスタンブール市長選では反エルドアン大統領の候補が当選した。そんな中、中村覚監修「シリーズ・中東政治研究の最前線」がスタート、間寧編著『トルコ』(ミネルヴァ書房)が出版され、今後も東アラブ地域を中心に続編が刊行されていくようだ。トランプ大統領のイラン敵視の政策の中で安倍首相のイラン訪問時に日本船籍タンカーへの攻撃が起きたが、山岸智子編著『現代イランの社会と政治 つながる人びとと国家の挑戦』(明石書店)のように何よりもまず冷静にイラン社会の現状を知る必要がある。欧米社会のイスラーム嫌いは激化するばかりだが、髙岡豊・溝渕正季編著『「アラブの春」以後のイスラーム主義運動』(ミネルヴァ書房)に示されるように研究の最前線からムスリムの怒りとは何かを再考すべきだろう。地道な臨地研究に基づく研究モノグラフである竹村和朗『現代エジプトの沙漠開発 土地の所有と利用をめぐる民族誌』(風響社)が出版され、若手研究者も気炎を吐いている。今後の中東研究の慶賀すべき傾向であろう。(うすき・あきら=日本女子大学教授・中東地域研究)

日本近代文学   石原 千秋

河野龍也『佐藤春夫と大正日本の感性 「物語」を超えて』(鼎書房)。佐藤春夫文学は、常に失われた自己を探し求めていたと論じているようだ。だから論者は、現実ではない郷里を「フルサト」と表記している。逆に、失われた自己は外国でも「発見」される。その空虚な広がりは、大正という時代の感性でもあったわけだ。秀技。ただ、文人めかしたあとがきはちょっとね。

小川利康『叛徒と隠士 周作人の一九二〇年代』(平凡社)。小川利康は周作人の研究家だが、この本は周作人を中心として、一九二〇年代という時代の思想状況を浮かび上がらせている。特に、西洋思想の受容の仕方がよく理解できる。たとえば、当時進化論の受容が果たした役割がよくわかるのである。日本近代文学の研究者も必読。

村田由美『漱石がいた熊本』(風間書房)。村田由美は、熊本時代の漱石の調査の鬼みたいな人だ。熊本時代の漱石と漱石のいた時代の熊本がよくわかる。教師としての漱石が浮かび上がるのもありがたい。この本の白眉は、漱石時代の第五高等学校の教授一五人のうち七人の戸籍が北海道にあることを突き止めたことだ。これで丸谷才一の、漱石は北海道に「送籍」して徴兵を逃れた罪悪感を終生持っていたという珍説の息の根が止められた。(いしはら・ちあき=日本近代文学)
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