2019年上半期の収穫から Part2|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年7月31日 / 新聞掲載日:2019年7月26日(第3298号)

2019年上半期の収穫から Part2

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第2回
日本近現代史   成田 龍一

藤木秀朗『映画観客とは何者か』(名古屋大学出版会)700ページに及ぼうという大著である。日本映画とその観客の関係を論じ、この百数十年の歴史を講じるという意欲作で、主要な映画作品はむろんのこと、テレビなどのメディアにも目配りする。観客を「民衆」「国民」「東亜民族」「大衆」「市民」との概念で歴史的に押さえ、その同時代的な理論も周到に踏まえられる。近現代日本を考察するうえで、あらたな地塁が提供された。

谷川稔・川島昭夫・南直人・金澤周作編著『越境する歴史家たちへ』(ミネルヴァ書房)1985年に創設された「近代社会史研究会」の軌跡を、中軸となった谷川稔がたどり、57人の歴史家たちがそれぞれのかかわり方から研究会を論ずる。京都に拠点を置くこの研究会は、戦後の歴史学の光景を大きく塗り替える役割を担った。その知的な活況と興奮が追体験できる。パラダイムがかわるのはこうした営みによるのだ、とつくづく思う。

原佑介『禁じられた郷愁』(新幹社)今ではすっかり忘れられてしまった作家・小林勝(1927―71)の評伝研究。この表題が著者の問題意識と分析の姿勢をはっきりと示している。植民地期・朝鮮で生まれ、敗戦後に日本に引揚げて来た小林は、「消滅した植民地」と「植民地を忘れた戦後日本」の間に生じた「空白地帯」にはまり込み、そのゆえに戦後日本に毅然として向き合う。資料を博捜し、問題意識も鮮明な力作。(なりた・りゅういち=日本女子大学教授・日本近現代史)

Title   辻山 良雄

東畑開人『居るのはつらいよ』(医学書院)。「ただ、居る、だけ」のように見える動きのない時間にも、つぶさに観察するとドラマや葛藤があり、考察の芽がある。沖縄のデイケア施設について、全篇笑いを交えながら書かれた文章は、深く血肉化された体験から自然に生まれたものだろう。レベッカ・ソルニット『迷うことについて』(東辻賢治郎訳、左右社)。〈迷う〉ことは未知の領域との接続を可能にする。学術的ではなくエッセイとも言い切れない文章は、個人の思考の過程がそのまま読者の思索を促していく。身体性を強く感じる、「考える本」。奥山淳志『庭とエスキース』(みすず書房)。著者は、北海道の小さな丸太小屋で、自給自足の生活を営む「弁造さん」のことが大好きになり、十四年間毎年季節ごとにその元を訪れ、その姿を写真におさめた。人のあいだに横たわる距離に誠実に向かい合うことで、「他者」と出会うよろこびを書ききった、ほかにない物語。(つじやま・よしお=荻窪・Title店主)

建築史   五十嵐 太郎

筆者が「ヤンキー文化論序説」を刊行してから10年、ようやく現場に肉薄した研究書がいくつか登場するようになった。そのひとつである知念渉の『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー』(青弓社)は、高校生活からその後の職歴までをたどる力作だが、理論的な枠組も構築しつつ、問題を解決すべく政策も提言している。江本弘『歴史の建設』(東京大学出版会)は、アメリカにおいても19世紀から20世紀初頭の建築界に大きな影響を与えたジョン・ラスキンを題材とし、その受容史を精密に検証した。建築の背景に思想と歴史が重要であることを改めて教えてくれる。中山英之の『建築のそれからにまつわる5本の映画』(TOTO出版)は、全体の目次がない。個展にあわせて制作された彼の作品を題材とする5つのショート・ムービーのパンフレットを束ねたかたちをとっているからだ。展覧会と同様、それぞれに新鮮な建築の本になっている。(いがらし・たろう=建築家)

ロシア法   渋谷 謙次郎

筆阪本秀昭・中澤敦夫 編著『ロシア正教古儀式派の歴史と文化』(明石書店)。ロシア革命の古層としても内外で注目されてきた古儀式派(いわゆるラスコーリニキ、分離派)の歴史を解説したものであり、日本語で読める本格的概説書。

松原広志『ロシア・インテリゲンツィヤの運命 イヴァーノフ=ラズームニクと20世紀前半ロシア』(成文社)。「インテリ」という語感の軽さに比して「インテリゲンツィヤ」という重々しい言葉は、この人のためにあるのではないかと思わしめる。帝政ロシアからソヴィエト、スターリンとヒトラーの収容所を流浪してきたラズームニクの生涯。

河村彩『ロシア構成主義 生活と造形の組織学』(共和国)。ロシア革命後のソ連でグラフィックアートが発達したのは、識字率の低い社会での共産主義宣伝などの実践的理由があったにしても、著者は、現代にいたるまで様々なアーティストによって参照、模倣されてきた「ロシア構成主義」を社会主義の生活の視点から再考する。(しぶや・けんじろう=神戸大学教授・ロシア法)
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