2019年上半期の収穫から Part2|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年7月31日 / 新聞掲載日:2019年7月26日(第3298号)

2019年上半期の収穫から Part2

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第3回
法哲学    森村 進

森悠一郎『関係の対等性と平等』(弘文堂)

土井崇弘『ハイエクの伝統論の再構成 日本文化のなかでの自由社会の擁護』(成文堂)

井上達夫『立憲主義という企て』(東京大学出版会)

三冊とも日本で現在活動中の、それぞれ若手・中堅・ベテランの法哲学者の本格的研究書を選べることができてうれしい。

『関係の対等性と平等』は現代英語圏の平等論を詳細に検討し、ロールズやセン以降主流となっている「分配的平等主義」に対立する「関係的平等主義」(その典型はアンダーソンの「民主的平等」)を擁護し発展させる。

ハイエクの研究書は数多いが、『ハイエクの伝統論の再構成』は彼の思想(また人権論)を今の日本社会にどう生かせるかという問題関心に貫かれている点が特色だ。同じ伝統尊重論でもマッキンタイアのような共同体論との比較が興味深い。

『立憲主義という企て』は憲法九条論争に深く参加してきた著者ならではの読みごたえある(ありすぎる?)論文集。日本の憲法学者や政治家・評論家の党派的態度への論難が舌鋒鋭いが、象牙の塔的な法哲学者の法概念論への批判もある。(もりむら・すすむ=法哲学・一橋大学特任教授)

社会学   中筋 直哉


3冊の注目作というより、それぞれ1冊の本に表れた、3つの流れに注目したい。1冊目は、島薗進『明治大帝の誕生』(春秋社)。姉妹編の『神聖天皇のゆくえ』(筑摩書房)だけでなく、死生学や科学技術社会論など、次々と発表される彼の新著はどれも挑戦的で、かつ近代日本の人文知の最良の伝統を私たち後進に教えてくれる。2冊目は、倉井耕一他著『地域資源を活かす 生活工芸双書 大麻(あさ)』(農山漁村文化協会)。何度も繰り返される大麻という社会問題に、こうした切り込み方ができるのは農文協の長い蓄積あってのことだ。3冊目は黄色い表紙の新書、文庫クセジュのM・マソン『双極性障害』(阿部又一郎・斎藤かおり監訳、白水社)。フーコーだのデリダだのと浮かれた世代には、今さらフランスの人文知なんて…。だが、どっこいアイドルはいなくても、その底堅さを文庫クセジュは伝えてくれる。かくして、だんだん書架に(赤ではなくて)黄色い新書が増えていく。(なかすじ・なおや=法政大学社会学部教授)

倫理学・政治思想   田中 智彦


生田武志『いのちへの礼儀』(筑摩書房) 動物とりわけ家畜の「死の苦しみ」は最小化する一方、「生の苦しみ」と「尊厳の剥奪」は極大化する「開放的な生の管理」。人間も例外ではなく、ゆえにそこからの解放は動物と人間の「共闘」を必要とする。「国家・資本・家族」に抗して「いのちの尊厳」を守るための、新たな視座と可能性を拓く思考の軌跡。

青野由利『ゲノム編集の光と闇』(ちくま新書) 「開放的な生命の操作」とでも言えそうなこの技術への不安は無知ゆえなのか。理解すればこそ深まる危惧もある。冷静な筆致でこの技術の来歴と力能、問題の基本を知るのに好適の一書。

坂井律子『〈いのち〉とがん』(岩波新書) 「いのち」の問題を考え、伝え続けた著者の姿勢は、自身がん患者となってからも変わらなかった。「長さでも、病の「重さ」でもなく/お金のかかる多寡でもなく/たったひとつの命として」。最後のメモに、「いのちを尊ぶ」ことの原点をあらためて思う。(たなか・ともひこ=東京医科歯科大学准教授・倫理学)

誠光社   堀部 篤史


読書人というよりも売り手の視点で本に接しがちなここ数年。今回も個人的な収穫であると同時に、自分の店で特別よく動いたもの、関連性の高いものを3冊。小西康陽『わたくしのビートルズ』(朝日新聞出版)は著者11年振りとなる新刊だが、前作までと同様、かつての晶文社が刊行したバラエティ・ブックのような体裁になっている。本文に新聞活字を使用し、図版を交え二段、三段組で構成される本書は、造本そのものが過去のものとなりつつある雑誌文化への秀逸なオマージュである。松村圭一郎他編『文化人類学の思考法』(世界思想社)はそもそも教材として編集されていたものが、一般書として刊行されたもの。身近な問題から文化人類学へと足を踏み入れるためのいわゆる「入門書」だが、シンプルでモダンな装丁が手に取りやすく、書棚において読者をこのジャンルへと誘う入り口として大変重宝した。池田忍『手仕事の帝国日本』(岩波書店)は民藝運動の周縁という個人的探求中のテーマと合致した内容に驚き。(ほりべ・あつし=京都・誠光社店主)
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