2019年上半期の収穫から Part2|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年7月31日 / 新聞掲載日:2019年7月26日(第3298号)

2019年上半期の収穫から Part2

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第5回
ノンフィクション作家   与那原 恵


戸川純『ピーポー&メー』(Pヴァイン)。俳優・シンガーとして強烈な個性を発揮した戸川純。時代の先端を走る彼女には、大手をふるう言説にも組み込まれない強さと知性があった。

彼女が出会った人々との交流を綴った本書は、蜷川幸雄、久世光彦、町田康、そしてバンドTACOのボーカルだったロリータ順子など十人を丁寧に描きだした。戸川の記憶の中に刻まれる「時代と人」が鮮やかに浮かび上がる。

佐藤卓己『流言のメディア史』(岩波書店)。SNSに大量に流される流言(フェイクニュース)が問題となっている。しかしこれは今に始まったことではなく、新聞・放送・出版などの既存メディアも、流言・デマ・風評・誤報を流してきた。さまざまな事例を取り上げ、流言が生まれる背景とからくり、それらが人々に受容される過程を検証した。

泉麻人『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮社)。戦後日本のポップカルチャーを作ったといわれる三木の生涯を通じて、戦後史・文化史を描く。GHQ民間情報局の検閲があった時代を軽やかに生きた三木。失われた東京の風景も魅力的だ。(よなはら・けい=ノンフィクション作家)

メディア論   長谷川 一


鈴木透『食の実験場アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ』(中公新書)は、画一的なファストフードに制圧されたかに見える超大国が、その基層において、異種混交に根ざした豊かな食文化を包蔵していることを明らかにする。たべものを「記憶の媒体」とみる視座は、ほとんどメディア論だ。実地経験を踏まえた叙述も好ましい。ただ、たべ過ぎにはご注意を。

林采成『飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史』(名古屋大学出版会)は、植民地期朝鮮の経済を「フードシステム」という観点から描く力作だ。帝国支配の諸機構がせめぎあう中から新たな食文化が現出するダイナミズムが興味深い。

大澤真幸『コミュニケーション』(弘文堂)は、ルーマン以後身動きのとれなくなったコミュニケーション理論の内破に挑む。鍵を握るのは二重の偶有性だ。『社会学史』(講談社現代新書)の掉尾に示唆されていた展望が、犀利に論証されている。この問いをいま正面から語ることができるのは、世界広しといえども著者をおいて他にはいまい。(はせがわ・はじめ=明治学院大学教授、メディア論・メディア思想・文化社会学)

中国近現代史    関 智英


人は死体とどのように向き合ってきたのだろうか。上田信『死体は誰のものか 比較文化史の視点から』(ちくま新書)は、漢族・チベット・ユダヤ教・キリスト教・日本の死体観を比較文化史の手法で探る。清代の記録に登場する、死体を掲げて要求を貫徹する行為が、近年にも見られるという指摘がされており、興味は尽きない。

米・牛・リンゴ・明太子・焼酎など九つの食料産業から、日本帝国圏に巻き込まれていく朝鮮社会の変容を描いたのが、林采成『飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史』(名古屋大学出版会)。結果、植民地住民や朝鮮牛の体格の劣等化が進んだとの指摘は統治の一面を厳しく伝える。

併合により日本の皇族に組み込まれた李垠については、李建志『李垠 李氏朝鮮最後の王』(作品社)が、全四巻でその生涯を描く。既刊は「大韓帝国」「大日本帝国〔明治期〕」の二巻。李垠については回想も含めて関係書は少なくないが、本書では周辺情報についても詳しく解説が施されている。続刊にも期待したい。(せき・ともひで=公益財団法人東洋文庫奨励研究員・明治大学兼任講師・中国近現代史)

仏文学   郷原 佳以


ニコラス・チェア/ドミニク・ウィリアムズ『アウシュヴィッツの巻物 証言資料』(二階宗人訳、みすず書房)。アウシュヴィッツ強制収容所でガス殺および死体焼却に従事させられたゾンダーコマンド(特別作業班)のなかには、身の危険を冒して証言を残した人々がいた。本書はビルケナウの地中に埋められた彼らの手記(「アウシュヴィッツの巻物」)の詳細な分析である。「巻物」は部分的にせよ戦後には発見されていたにもかかわらず、注目度はあまりにも低い。本書によってその存在が広く知られることを願う。

フェルナンド・バエス『書物の破壊の世界史』(八重樫克彦・八重樫由貴子訳、紀伊國屋書店)。書物は誕生以来現代に至るまで、愛好され収集や保管の対象となる一方で、破壊の対象となってきた。本書は古代オリエントからアレクサンドリア図書館を経てナチスやイラク戦争、現代のテロに至るまで、いかに書物が破壊され続けたかを圧倒的な規模で示す。抑圧者は書物を恐れるという言葉は現代にも重く響く。

塚本昌則『目覚めたまま見る夢』(岩波書店)。本書によれば、モンテーニュとルソーを引き継ぐ二〇世紀フランスの作家たちは、夢そのものではなく、覚醒したまま夢を見ることの探究に惹きつけられたという。本書は、個別の作家においてその探究を追うことで、そこに通底する緊張感のある語りを浮かび上がらせる。対象を拡げてさらに考えてみたくなる。(ごうはら・かい=東京大学准教授・仏文学)
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