天皇制と闘うとはどういうことか 書評|菅 孝行(航思社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月27日 / 新聞掲載日:2019年7月26日(第3299号)

天皇制と闘うとはどういうことか 書評
天皇の退位問題、沖縄問題など、時事的テーマを、豊富な知識と情熱によって掘り下げる

天皇制と闘うとはどういうことか
著 者:菅 孝行
出版社:航思社
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いくつかの論文や対談、往復書簡、インタヴューを集めたものであるが、書下ろしに比べても遜色がない。それどころか、所々に、挟まれた対談、インタヴューが極めて効果的で、劇作家である菅孝行は、有能な編集者でもあると気づかされた。

天皇の退位問題、沖縄問題などの時事的テーマが彼の豊富な知識と情熱によって掘り下げられていく。そのなかで、いつしか、日本という情況の中での自分が対決させられる。ほんとうは、この書の一つ一つのテーマについて討論しなければならないが、書きやすいものにだけ限定して触れよう。まずは、象徴天皇制である。

菅は、明仁の退位に関する「8・8声明」を、沖縄の川満信一との往復書簡によって取り上げる。川満は国家を「権力」と「国体」を二つに分けて、天皇を国民統合を行う『国体』の象徴とする。だから、天皇が内閣の助言と承認を経ずして、退位の意向を示した「8・8声明」を平和主義的な「国体」の発言とみなし、安倍の改憲主義的な「国権」と「国体」の軋轢を問題とする。

これに対して、菅孝行は象徴天皇制というものは、人間を象徴という記号にしてしまう体制であるとする。だから、憲法の理念を持った一個の人間として天皇は改憲推進派の意向に反して沖縄やサイパンを訪れたりした、だが、そうした仕事の継続が老齢のため困難であると悟り退任声明に至ったのだと述べている。こう見てみると両者の間にかなりの隔たりがあるようにも見えるが、そうでもない。

菅にしても、裕仁が国体護持と引き換えに、沖縄をアメリカに売り渡したことを強調しているし、その国体を明仁が継承しているとしている。だが、ここで、川満に比べれば、彼が、アクセントを置くのは、民主主義と象徴天皇制を自明のものとして育った明仁に体現される象徴(記号)としての矛盾なのである。

それだからこそ、菅は、象徴としての天皇は、「婚姻や離婚の自由も、職業選択の自由も、言論の自由も、住居選択の自由」も持たない、いわば、「聖なる奴隷」なのだとまでいう。そして、こうした「聖なる奴隷」が憲法違反とみなされるような発言までしたのが「8・8声明」だといい、その返す刀で安倍を打倒できない国民の現状に憤るのだ。

たしかに、その憤りは了解できる。が、より根本的なのは、人権という普遍的な権利が許されていない者がこの世に存在すること自体だろう。天皇に人権を持たせよ、象徴天皇制から天皇を解放せよといいたくなる。考えてみれば、この日本の「民主的で平和な国家」は、いじめっ子たちが、いじめられっ子を作って団結するように、天皇や沖縄という第三項を排除することによって成立していると私は考える。

この構図からみると、この本に収められているダグラス・ラミスへのインタヴューの位相も明らかになる。ラミスは、沖縄に日本の基地の95%が集中しているという事実を指摘し、沖縄の基地を本土に移設せよという。基地の撤廃を唱える菅はさすがにたじろぐ。僕も、「それは」といってしまうかもしれないが、ラミスの発言は論理的だ。本土の「平和」は沖縄という生贄の上に立つものだからだ。

基地は、本土に持ってくるべきだ。しかも、奄美や北海道や東北などの田舎ではなく、東京とか大阪に基地を。これは、一見、暴論に見える。だが、この論理で明治維新はやり遂げられたのだ。『日本二千五百年』の作者、竹越与三郎は明治中期に書いている。吉田松陰たちの開国攘夷派は、列国と「一戦して人心を警醒し、遊惰苟安の夢を破りて、列国と和す」と。東京や大阪に基地を呼び込み、人々の「遊惰苟安の夢」を破って、基地の撤廃が絶対に必要だと感じてもらうのだ。『二千六百年史』や『日本国紀』ではなく、こうした「狂気」が望まれているのではなかろうか。様々なことを私たちに考えさせる本である。
この記事の中でご紹介した本
天皇制と闘うとはどういうことか/航思社
天皇制と闘うとはどういうことか
著 者:菅 孝行
出版社:航思社
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「天皇制と闘うとはどういうことか」出版社のホームページはこちら
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