音楽と出会う 21世紀的つきあい方 書評|岡田 暁生(世界思想社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年7月27日 / 新聞掲載日:2019年7月26日(第3299号)

音楽と出会う 21世紀的つきあい方 書評
音楽を聴くことは、メディアに出会うことである

音楽と出会う 21世紀的つきあい方
著 者:岡田 暁生
出版社:世界思想社
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まずはお詫び。お見それしました。何を? 音楽学者で、稀代のクラシック音楽の語り手、岡田暁生による21世紀音楽論のことです。先入観として「クラシック音楽は偉大です、リスナー諸君、大丈夫なにも心配いらないよ」と、懐旧的な言葉を紡いでくださることを期待していました。私=評者がただのクラオタであることの自己肯定感を得たいがために、本書を手に取ったこと自体、愚かな甘えでした。本書を読了したいま、断言できます。クラシック音楽を聴くことは、21世紀にいたって、メディア技術と私の関係、世界とのあいだに生じる肌触りの差異を体感し、解読する行為にほかならないことなのだとわかりました!

と、冗談めかした懺悔はここまでにして、タイトルや造本からも入門書のように見える本書は、じつに驚くべきメディア論なのである。

元『WIRED』編集長の若林恵が、デジタル以降のテクノロジーの変化の兆しは、どの分野よりも音楽から始まるという主旨の発言をしていた。例えば、データフォーマットや流通システム、視聴環境等々。本書ではこうした観点を、音楽学者が実体験に即して語り尽くしている。

私にとって特に刺激的に思われたのは、第四章「音楽と電気と幽霊と」、第五章「ネット空間を流れる音楽」、第七章「AIはモーツァルトになれるのか?」である。

第四章は、マン『魔の山』、プルースト『失われた時を求めて』を振り返りつつ、20世紀初頭、音楽はすでにそこにないものを聴くこと、つまり録音を通して演奏する身体の痕跡を体験することであったと振り返る。ライブによる音楽の体験の比重が大きかった世代は、録音音楽に演奏する身体性の欠如を見いだし、メディアがつくりだす亡霊性を批判的に論じてきたが、本書ではむしろ、亡霊を自明とする世代にとっての音楽体験が、どのように演奏と録音の関係に身体性の接点あるいは限界を感じているのかを問うている。リスナーの世代構成も変わってきた現在、録音音楽体験から始まる世代にとって、音楽を受肉する身体のリミットは無くなるのかと問う。

これに続く第五章では、ベンヤミンを振り返りつつ、複製技術論の延長でインターネットによる音楽視聴を論じ、これをポストモダン装置の完成であり、ジャンルとクライテリアの解体とし、歴史的な差異の体系を破壊しつくした一方で、実は芸術本来の新しいオーラを見出しているのでは無いかと述べる。実体験に即して、前世紀に活躍した物故演奏家の流出動画がユーチューブで閲覧可能となり、メディア越しに奇跡的な演奏と一目で分かるそれが、違法でアップロードされていることもあるという。岡田はこれを「著作権法などといった範疇を超えた、奇跡」と指摘する。秘儀の盗撮であるかのような映像が、誰もがアクセスできるメディア環境に公開され、あっという間に流通し、やはりそれは奇跡として尊重されていくこと。ここにライブとは逆説的な、芸術の圧倒的な力が現れていると述べる。メディアの進展につきあう論者の多くは、複製に対する権利の主張に躍起になる。しかし岡田は、芸術におけるメディアの恩恵を、こうしたタブーとして降臨する現象であり、図らずもフェイクニュースや歴史の改竄の正反対の力として、過去の再発見に注目する。

AIに関しても岡田は、音楽に感動することを基盤に論じている。要約すると、AIで音楽ができるのは当然として、それはAIが人間並みでなく、人間がAI並みになるということではないかと指摘する。これはレトリックでは無い。

本書において重要なポイントは、メディアによってスキャンされた音楽の感動の質を受け容れて、いま一度、音楽とはなにか? 芸術とはなにかを問うている点にある。
この記事の中でご紹介した本
音楽と出会う 21世紀的つきあい方/世界思想社
音楽と出会う 21世紀的つきあい方
著 者:岡田 暁生
出版社:世界思想社
以下のオンライン書店でご購入できます
「音楽と出会う 21世紀的つきあい方」出版社のホームページはこちら
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