小谷博泰『シャングリラの扉』(2017) 踏切にカンカンカンと音がして引き込み線をバナナの急ぐ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

現代短歌むしめがね
更新日:2019年8月6日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

踏切にカンカンカンと音がして引き込み線をバナナの急ぐ
小谷博泰『シャングリラの扉』(2017)

このエントリーをはてなブックマークに追加

引き込み線という言葉を知っているだろうか。専用線ともいい、特定の企業のために、鉄道事業線につなげられている線路のことである。つまり、資材を工場や倉庫に運んだり、商品を出荷したりと、そういう目的のために使われている線路だ。分岐して「引き込む」ように線路がつながっているので引き込み線と呼ばれる。現在も全国各地の工業都市に存在するが、たくさんの乗降客が乗り入れるようなターミナル駅にはあまりないので、知名度は高くない。今では二〇万人以上が毎日乗降しているJR東日本川崎駅には、一九八一年まで明治製菓川崎工場への引き込み線が伸びていた。

掲出歌は、バナナを運ぶ引き込み線の風景が描かれている。戦後間もない時代、台湾から運ばれてきた青バナナが引き込み線で市場へと入ってゆくのである。GHQにより輸入制限がかけられていたため、当時のバナナは貴重品である。日本人の庶民の子どもが口にできるようなものではなかった。国内にバナナが普及するのは、一九六三年に輸入自由化されフィリピン産の安価なバナナが台頭するようになってからである。

作者は神戸市出身であるため、バナナの引き込み線があったと推測できるのは国鉄(後のJR貨物)神戸港駅。貨物専用の駅で、二〇〇三年に廃駅となった。現在は跡地が神戸震災復興記念公園となっている。なお神戸港は現在もバナナの輸入量日本一であり、巨大な保冷倉庫がある。バナナで語られる故郷というのも乙な話だ。(やまだ・わたる=歌人)
このエントリーをはてなブックマークに追加
山田 航 氏の関連記事
現代短歌むしめがねのその他の記事
現代短歌むしめがねをもっと見る >
文学 > 日本文学 > 短歌関連記事
短歌の関連記事をもっと見る >