連載 ヌーヴェルヴァーグを作った批評 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 116|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年8月6日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

連載 ヌーヴェルヴァーグを作った批評 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 116

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シネクラブにて語るドゥーシェ(近影)
HK 
 ドゥーシェさんは、非常に綺麗な文章を書かれます。
JD 
 もしかしたら、私は良い文章を書いてきたのかもしれませんが、あまり深く意識したことはありません。ただ単に意識してきたのは、私の理解していることを、簡単な言葉で伝えることです。最も明瞭な表現を選んできたはずです。自分が知っている以上のことを盛り込まないことも意識してきました。
HK 
 絵画や演劇のような、映画以外のものについて批評を行いたいと思うことはありませんでしたか。
JD 
 絵画や演劇には昔から関心がありましたが、それについて世間に何かを言うのは私の領分ではありません。文学についても同じです。その点、物事に対する尊敬の念を失ってはいけないと考えてきました。自分の専門分野があるのならば、それだけでも尊敬すべきことです。しかし、なんでも知っており、様々な意見を持っている多くの人々は、あらゆるところに手をつけなければ気が済まないようです。
HK 
 ソクラテスの才気を持たなければいけないということですね。
JD 
 そういうことです(笑)。

〔以下、ラース・フォン・トリアー『ハウス・ジャック・ビルト』論への導入として記す〕


一般的に、映画作品を見た直後と時をおいた後では、作品に対して持つ印象と話す内容が大きく異なる。そのような傾向は観客に限ったものではなく、語り手とその対話者に関しても同様である。映画に関する多くのインタビューは、作品鑑賞と共になされることは稀であり、抽象的なものが多い。もしくは、作品制作の過程についての証言を求めるものである。

ジャン・ドゥーシェの主な関心であり、その仕事は、多くの批評家とは異なるものである。六〇年代以降、書き言葉である映画批評から話し言葉中心のシネクラブに活動の場を移し、観客との直接的交流を通じて映画を考察することになった。作品上映の前に行われる説明には微塵も興味を持たず、上映後の観客の感想から即時に思考を巡らせ、見たばかりの映画を雄弁に彩ることのできる稀な批評家である。上映前後にのみ映画館に話に来ることは決してなく、観客と共に作品を見て、観客達の反応をも考慮しながら、映画を語る。映画館がドゥーシェの長年の戦場なのである。

二〇一八年五月のカンヌ映画祭以降、ドゥーシェは頻繁にラース・フォン・トリアーの最新作『ハウス・ジャック・ビルト』の名前を挙げている。カンヌ映画祭の話題をさらったゴダールの新作については「ゴダールにしては、そこそこの出来だった」と述べる一方で、トリアーの最新作については「映画館の最良の席で見ないでいるためには美しすぎる」と高く評価をしている。

映画批評家は、作品の好き嫌いとは別に、語るべき作品について得手不得手がある。当然好きな作品を雄弁に語ることができる批評が最良である。反対に、嫌いな作品について語った批評の中にも、重要性を持ったものが多く存在している。ドゥーシェの語る映画とは、一貫して好きなもののみであり、その点において、ジャン・ドゥーシェは、自らの考えと対象となる映画が絡み合う瞬間において、非常に強い輝きを見せる批評家だと思われる。

「映画史の中で最も美しい二つのフィルム」と述べるルノワールの『ゲームの規則』と溝口健二の『雨月物語』を、彼ほど雄弁に語る人は他にいないだろう。彼の手にかかると、作品全体が哲学を持ち、同時に一つ一つのショット、シーン、シークエンス、モンタージュのような細部までもが、一度分析の対象となるや、生まれ変わるようにしてさらなる輝きを見せる。
そのような作品分析の手法を知っていれば、L・トリアーの最新作に対する分析は、近年におけるドゥーシェの最良の映画分析であったと思われる。この後につづくインタビューは、作品単体ではなく、L・トリアーという映画作家そのものを主題として行われたものである。話を補足するために、二〇一八年一〇月、南仏ガスコーニュ地方オーシュを会場とした「独立と創造の映画祭」で開かれた『ハウス・ジャック・ビルト』の上映直後のシネクラブの様子を抜粋しながら、対話を進めることにする。
〈次号につづく〉
(聞き手・文・撮影=久保宏樹)
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